腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
あれからウサギは僕を避けている。
なんでだ?
電話もメールも出ないし、非常階段にもやって来ない。
いい加減腹が立ってくる。

病児保育室の休憩室。
今日は奈々ちゃんと桜子先生とお茶だ。
僕は奈々ちゃんの作ったガトーショコラをムシャムシャ咀嚼する。
桜子さんと、奈々ちゃんはあきれ顔だ。桜子さんが
「ちゃんと、味わってる?」と聞く。僕は頷くけど、味がよくわからない。
「菅原先生、今日のは栗が入ってるの。もうひとつ食べる?」と奈々ちゃんが聞く。
僕は頷いて、やっとペースを落として食べる事にする。桜子さんが笑って、
「感情がむき出しだよ。菅原君。本来はそういう人だったんだね。」と言って、
「ウサギちゃんは、すごく真面目に仕事をしてる。
失敗も少なくなった。でも、ものすごーく緊張して、
頑張っってるのがはたから見てもよくわかる。
たまにはリラックスさせてあげたい。」と僕の顔を見る。
僕の周りは彼女をウサギちゃんと呼ぶようになった。
やれやれ。
「僕もそうしたい。でも、すごく避けられてる。
僕は彼女を怖がらせないようにちゃんと、距離を取ってた。
ふたりっきりの時も、あんまり近づかないように気をつけてた。」
「オオカミだから?」と桜子さんが聞く。僕は頷く。
「なるほどね。」と奈々ちゃん。
「菅原先生はウサギちゃんの事を子どもに扱いしすぎじゃない?
きっと、先生の事は誰かからイロイロ聞いてるだろうけど、
なんの説明もなくそばにいても、
きっと、自分を好きだからそばにいるんだって
思っていないのかもしれないなあ、
わかっているだろうと思っても、ちゃんと言葉にしなければわからない事って、
たくさんあるかもしれない。」と考えながら言った。
「リュウみたいに?」と桜子さん。
「まあ、あの人の態度は強引でしたけど、
結局、私は好きってハッキリ言葉にされないと、わからなかったかな。」
桜子さんが、
「まあ、奈々ちゃんの鈍さは筋金入りですけど。
今ではリュウはものすごくわかりやすい言葉と態度で、
見ているだけで胸やけしそうですねえ。」と笑って、
「ウサギちゃんも、かなり鈍感そうですね〜。
恋愛に慣れてなさそうだし。」と僕に笑いかける。
そうかもしれない。
もっと、わかりやすく。
とりあえず、ふたりで会うってところから始めたい。




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