腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ

荷物を出すように言われて、
旅行用の大きなトランクを開ける。
目立つ所に入れてあった、
ジンベエ鮫のぬいぐるみを取り出し、ベットの枕元に置く。
この間水族館で菅原先生に買ってもらったものだ。
ぬいぐるみを置くと、
ちょっとだけ、知っている場所になったみたいで安心する。
寝室のウォークインクローゼットの片側に先生は幾つかのハンガーと、
衣類を入れるための小さな籐籠を用意してくれた。
数日分の荷物なので十分だ。

リビングに入ると、FMラジオが流れていて、
菅原先生はシャワーを済ませたみたいで、髪を濡らし、
Tシャツと柔らかいスウェットに着替えている。
リビングには床暖房になっていて、足元が暖かいし、
エアコンもきちんとつけられている。
「お部屋、暖かいですね。」と笑うと、
「僕は寒がりだから、結構、部屋を暖めちゃうんだけど、
暑すぎたら、温度を下げるから言ってね。
お風呂にお湯を入れてきたから、
ウサギも入っておいで。のんびりしよう。」と私に笑いかけた。
「…はい。」と返事をしたけど、
すごく緊張する。
菅原先生は私の事を気にせず、リビングのテーブルで、パソコンを広げ、
画面に集中し始めた。
お仕事かな？

私がお風呂に入る用意を終えると、
「バスタオルはここ。タオルはここ。
洗濯物は別々にする？
下着はお風呂場に干す？
ベランダでも良いけど…」とイロイロ聞くので、
「とっとりあえず明日考えます。」と真っ赤になって、言うと、
先生は笑って、
「今日はいつも通りのウサギなんだな。」と言った。