腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
しおりんが
「ミュー。」と私の名前を呼んで、抱きしめ、声を出して泣いた。
ゴメンね。心配かけて。
菅原先生は私達を席に座らせ、
「しおりん、車で寮に送るから、ゆっくり、話して。
美雨、帰る前に電話して。」と言って、店を出て行った。しおりんが
「ミューったら、いつから美雨って呼ばれてるの?」とニヤニヤする。
えーと、初めて呼ばれましたけど。と思って、顔が赤くなる。
「ミューの事がすっごく心配だったけど、帰ってこないから、実家に戻ってるって思ってた。
先生のところにいるなんて知らなかったから、ビックリだよ。」と言い、
「いつから、付き合ってるの?」と私に聞いた。
「いや、付き合っているわけではないと思うんだけど。」と言うと、
「そんなことないでしょ。先生、仕事まで休んでるんでしょ。
好きじゃなきゃ、そんな事しないって。」と怒る。
「えーと、『好きだよ』って言われたかな。でも、特別って訳じゃないと思う。」と言うと、
「それって、どういう事?」と聞くので、
「オオカミのルール。子供は相手にしない。」と言うと、
しおりんは呆れた顔をする。

1回寝たらおしまい。って事は私の胸にしまっておく。
しおりんは知らなくても良い情報だ。

「ミューはそれで良いの?」と心配な顔を見せたけど、
それについては仕方がない事なので、頷いておく事にする。
しおりんは大きく溜息をついて、
「先生はミューの気持ちを知ってる?」と聞くので、
「休みが終わったら、ちゃんと、言う。」と言うと、
「わかった。」と頷いて、それ以上は聞かないでいてくれた。

しおりんは、昨日の事件のことについては聞かないで、
私が好きなアイドルグループのストームの話や、
最近話題のドラマやマンガの話をひとしきりしてから、帰る事にした。

菅原先生の車の中で、しおりんは
「ミューをお願いします。」と笑い、
「菅原先生のところにミューがいるって、ナイショですか?」とおどけて聞く。
菅原先生は
「特にナイショにはしてないよ。救急外来のヤツらは知ってるし。
まあ、あんまり広がって、よくない噂が美雨の耳に入ると、困るけど。
僕の噂は良いものはきっとないと思うから、
美雨を傷つけたくはないかな。」
と言ってくれた。しおりんは
「ミューが大切なんですね。」と聞く。
「うーん。僕は女の子には信用がないんだなぁ。
もちろん、大切ですよ。」と先生が笑い、私の顔を見るので、
私は真っ赤になって俯いた。しおりんは
「私もミューが大切なので、黙っておくようにします。」と小さな声で言った。




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