Bu-KIYOびんぼう ~幼なじみと不器用な約束~
散策をしながら銀閣寺に着いた頃には、だいぶ日が傾いて、道を歩く人の数もずいぶん少なくなっていた。

苔むした山の斜面は、橙色の光に覆われている。


「こういうとこで、虫が鳴いてると耳に響くな」

タケルくんが言った。


「『いとあわれなり』だね」

「まさにそんな感じ。コオロギくらいしか分かんないけど」

「昔は、鳴く虫はみんなコオロギって言ったんだよ」

「マジで?」

「うん。蝉も松虫も鈴虫もみんな」

「へえ!さすがキヨ」


タケルくんに、さすがなんて言われちゃうと照れちゃうな。


「キヨ、ここ好き?」

「すごく好き。日帰りなんて…」

なんか、今、大胆なことを言いそうになってしまった。


「泊まりたい?」

笑い含んだ声で言われた。

「う、うん」

「俺も」

その声が別の意味に聞こえて…

顔が赤くなる!


「た、タケルくん。行きたいところって?」

「あっちの方。そこ行ったら帰ろう」


もう帰る…

寂しいな…


それでもタケルくんについていった。


まばらだった人の数が、少しずつ増えていった。

だけど、雰囲気が少し違う。

ここを歩いている人たちは、観光客じゃなかった。

ここに住んでいる人。


大きな古い建物が見えてきた。


…大学?

そうだ。

この回りにいる人たちも、みんな大学生だ。
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