魔王スサノオ降臨
第3章、晴天の霹靂

Ⅰ、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の毒


それでは、話の全体を御理解いただけ安くするため、順番に話を進めていきます。
まずは、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の伝説からです。

大暴れした末、高天原を追放された我が弟の須佐之男命(スサノオノミコト)は、出雲国の肥河の上流の鳥髪の地に降り立ちました。
箸が流れてきた川を上ると、美しい娘を間に老夫婦が泣いていました。
その夫婦は大山津見神(オオヤマツミ)の子の足名椎命(アシナヅチ)と手名椎命(テナヅチ)であり、娘は櫛名田比売(クシナダヒメ)といいました。

夫婦の娘は8人いましたが、年に一度、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)という8つの頭と8本の尾を持った巨大な怪物がやって来ては娘を食べてしまったのです。
今年も八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の来る時期が近付いたため,最後に残った末娘の櫛名田比売(クシナダヒメ)も食べられてしまうと泣いていたのでした。

須佐之男命(スサノオノミコト)は、櫛名田比売(クシナダヒメ)との結婚を条件に、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治を請け負いました。
まず、須佐之男命(スサノオノミコト)は櫛名田比売(クシナダヒメ)を櫛(クシ)に変えてしまい、自分の髪に挿したのです。
そして、足名椎命(アシナヅチ)と手名椎命(テナヅチ)に、8回の醸造の末にできる非常に強い酒である八塩折之酒(ヤシオリノサケ)を醸し、8つの門を作り、それぞれに酒を満たした酒桶を置くように言いました。

時が過ぎ、ついに八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が現れました。
頭と尾はそれぞれ8つずつあり、眼は赤い鬼灯のようで、松や柏が背中に生えていて、8つの丘、8つの谷の間に延びるほど巨大でした。
酒桶を見つけた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は8つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで酒を飲み出したのです。
八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が酔って寝てしまうと、須佐之男命(スサノオノミコト)は十束剣(トツカノツルギ)で切り刻みました。
このとき,尾を切ると剣の刃が欠け,尾の中から大刀が出てきたのです。
そしてこの大刀を天照御大神(アマテラスオオミカミ)に献上したのですが、これが、草薙剣(クサナギノツルギ)なのでした。

このような流れが、古事記や日本書紀に記され、現在に伝わっている神話です。
しかし、事実はまだこれに続きがあるのです。

酔った八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を順番に切り刻んでいく中、最後の1匹が目を覚ましたのです。
その1匹は何とか頭を持ち上げ、須佐之男命(スサノオノミコト)を飲みこもうとしました。
しかし、まだ思うように体を動かすことができません。
結局は止めをさされ、他の7匹と同じように切り刻まれたのですが、止めを刺される寸前に、最後の力を振り絞って、喉の奥から息を吐き出し、須佐之男命(スサノオノミコト)に吹き付けたのでした。
その時は、ただの臭い息だと思っていたのですが、それから3カ月ほどしてから、異変は起こりました。
手足は腫れ上がり、顔は鬼のように変わっていったのです。
姿も鬼と化し、心も神であった須佐之男命(スサノオノミコト)から、魔族の物に変貌していったのです。
八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の吐き出した息は、全ての生き物を悪魔に変えてしまう毒息なのでした。
普通の生き物なら、3日ともたないところですが、そこは須佐之男命(スサノオノミコト)、3カ月は体の中に抑え込んでいたのです。
しかし、その間にも八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の毒は、どんどん増強し、ついに須佐之男命(スサノオノミコト)の体と心を蝕んでいきました。
なんとか治そうと、姉の天照大神(アマテラスオオミカミ)も手を尽くしましたが、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の毒には勝つことができませんでした。
神々の努力は、全てが無駄に終わってしまいました。
その後、鬼と化した須佐之男命(スサノオノミコト)は出雲の地を破壊し始めたのです。
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