魔王スサノオ降臨
Ⅲ、出雲
「出雲」という国名の由来は、雲が湧き上がる様子をあらわした語「稜威母(イズモ)」という。
日本国母神「イザナミ」の尊厳への敬意を表す言葉からきた語と言われている。
あるいは稜威藻(イズモ)という竜神信仰の藻草の神威凛然たることを示した語を、その源流とするという説がある。
ただし歴史的仮名遣では「いづも」であり、出鉄|(いづもの)からきたという説もあるが。
イザナギとイザナミには、一般に知られる関係とは、かなり違った恐ろしい話が残っている。
イザナギは天地開闢において神世七代の最後にイザナミとともに生まれた。
国産み・神産みにおいてイザナミとの間に日本国土を形づくる多数の子を儲ける。
その中には淡路島・本州・四国・九州等の島々、石・木・海|(オオワタツミ・大綿津見神)・水・風・山|(オオヤマツミ・大山津見神)・野・火など森羅万象の神が含まれる。
イザナミが、火の神である迦具土神(カグツチ)を産んだために陰部に火傷を負って亡くなると、その迦具土神(カグツチ)を殺し|(その血や死体からも神が生まれる)、出雲と伯伎の国境の比婆山に埋葬した。
しかし、イザナミに逢いたい気持ちを捨てきれず、黄泉国(ヨミノクニ)まで逢いに行くが、そこで決して覗いてはいけないというイザナミとの約束を破って見てしまったのは、腐敗して蛆にたかられ、八雷神(ヤクサノイカヅチガミ)に囲まれたイザナミの姿であった。
その姿を恐れてイザナギは逃げ出してしまう。
追いかけるイザナミ、八雷神(ヤクサノイカヅチガミ)、黄泉醜女(ヨモツシコメ)らに、髪飾りから生まれた葡萄、櫛から生まれた筍、黄泉の境に生えていた桃の木の実を投げて難を振り切る。
黄泉国(ヨミノクニ)と地上との境である黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)の地上側出口を大岩で塞ぎ、イザナミと完全に離縁した。
その時に岩を挟んで二人が会話するのだが、イザナミが「お前の国の人間を1日1000人殺してやる」というと、「それならば私は、1日1500の産屋を建てよう」とイザナギは言い返している。
その後、イザナギが黄泉国(ヨミノクニ)の汚れを落とすために「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原」で禊(ミソギ)を行なうと様々な神が生まれ、最後に天照大神|(アマテラス)・月夜見尊|(ツクヨミ)・須佐之男命|(スサノオ)の三貴子が生まれた。
イザナギは三貴子にそれぞれ高天原・夜・海原の統治を委任した。
今回の事件の大元は、その天照大神(アマテラスオオミカミ)と須佐之男命(スサノオノミコト)の姉弟、そして弟須佐之男命(スサノオノミコト)が退治した八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が端を発しているのである。
そして、大蛇(オロチ)の楔(クサビ)が奪われて、1週間後の午前0時。
神々の勢力内にある、出雲地域にほど近い幹線道路。
停車中の車の中に、大蛇(オロチ)の楔(クサビ)を奪った3つの影があった。
この先から、いよいよ出雲の地だ。
天界からの監視の目も行きとどいている。
もう、斑鳩(イカルガ)のことも知れ渡っているだろう。
油断をすると、すぐに神の手の者が襲ってくるぞ。
さあ、この水を頭と体に吹き付けるんだ。
なんだ、この水は?
これは、大蛇(オロチ)の血を入れた壺に入れた水だ。
染みついた大蛇(オロチ)の血と水が混ざったものだ。
これを、吹き付けることで、しばらくは魔族の気配を消すことができるのだ。
しかし、数時間、数時間だけだ。
次の仕事は迅速に済ませ、出雲から遠く離れなけらばならない。
手間取ると、あっという間に襲われるからな。
出雲の地、須佐川のほとりに鎮座する須佐(スサ)神社。
須佐之男命(スサノオノミコト)ゆかりの神社は全国に数多くあるが、須佐之男命(スサノオノミコト)の御魂を祀る神社は、唯一この須佐(スサ)神社だけである。
境内への入り口となる隋神門の向かい南側には、天照大神(アマテラスオオミカミ)を祀る天照社が鎮座している。
須佐之男命(スサノオノミコト)が御祭神となる神社に隣接して、姉の天照大神(アマテラスオオミカミ)を祀る天照社が配置されているのは何故か。
この意味は、すぐにわかることとなる。
人通りも無い午前1時、影の乗った車が静かに須佐(スサ)神社の駐車場の隅に入ってきた。
大きな木のすぐ横、目立たない場所に車を止め、3つの影が飛び出してきた。
その影は、疾風の如く本殿に向かう。
本殿、入り口。
おい、この鍵は捻り潰してもいいんだな。
ああ、構わないさ。
しかし、よく見るんだ。
人間の目には見えないが、神の鎖が扉を封印しているだろ。
この鎖を切らなければ、鍵は壊せない。
くそっ、どうすればいいんだ。
大丈夫だ、斑鳩(イカルガ)から奪った、大蛇(オロチ)の頭の石を1個出してくれ。
見ていろよ。
あっ、大蛇(オロチ)の目が赤くなっていく!
離せ、火傷をするぞ・・・ふふふ、一度、楔(クサビ)から石に変わったものは火傷はしない。
真っ赤になった目の大蛇(オロチ)の頭を鎖に近づける、すると、大蛇(オロチ)の頭が、扉を封印している神の鎖を食いちぎってしまったではないか。
よし、鍵を捻り潰すんだ。
本殿の中に侵入した3つの影。
入り口正面の壁の後ろ側に位置する神座の前に。
さて、須佐之男命(スサノオノミコト)の御祭神と対面だ、扉を開けろ。
観音開きの扉を開き、中を見た影の1つが声を揚げる。
無いぞ!なにも無いじゃないか!
それに、別の影が諭す。
それでいいんだ。
何故だ、それを奪いに来たんだろう。
底板を外してみるんだ、何かないか?
うん、小さなガラスのような玉が3つあるぞ、これが須佐之男命(スサノオノミコト)の御神体なのか?
いいや、これは、天照大神(アマテラスオオミカミ)の涙の結晶だ。
さあ、ゆっくり見ている暇はない。
この袋に入れるんだ。
これは、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の胃袋の1部だ、これに入れている間は、神も気がつかない。
よし、急いで退散だ、出雲を離れるぞ。
須佐之男命(スサノオノミコト)を祀っている神社に、本来あるはずの御神体がなく、ガラスの玉が隠されているのは何故か?
それは、須佐之男命(スサノオノミコト)を祀ることができないからである。
その意味は、隠されていた天照大神(アマテラスオオミカミ)の涙の結晶にある。
須佐之男命(スサノオノミコト)が戻ってくることを憂いて、天照大神(アマテラスオオミカミ)が涙を流し、御神体のいない神社とその結晶を加護するために、須佐(スサ)神社の南に天照社を建立したのであった。
では、須佐之男命(スサノオノミコト)はいったいどこに・・・