魔王スサノオ降臨

Ⅳ、八塩折之酒(ヤシオリノサケ)


1台の車が、深夜にも関わらず、丹波の大江山(オオエヤマ)の山中を走っていた。
無事に出雲を出られた、冷や汗ものだったな。
さて、ここが最後の仕事場になる。
林道の様だが、これ以上は車で進めない。
下りるんだ、歩くぞ。
けもの道を山の奥深くに30分程歩くと、こじんまりとした平地に出た。
着いたぞ、ここだ。
やっと着いたのか、ここはどこなんだ?
神の追手は来ないのか?
ここまでは来ることができない。
ここは、魔族の鬼が支配する地域だ。
そうか、仲間の地か、安心したぜ。
ふふ、安心するのはちょっと早いぜ。
鬼とは言っても、鬼族の最強の将軍、鬼王・酒呑童子(シュテンドウジ)の領地だからな。
なにっ、気に入らなければ、仲間も殺戮(サツリク)するという・・・
もうすぐここにお出ましになるぞ。
精々、嫌われないようにすることだ。

1時間程待った頃、大きな地響きとともに、地面が割れ鬼が現れた。
身の丈3mはあろうかという大きな鬼の軍勢である。
その中に、更に3倍以上の大きな鬼がいた、鬼王・酒呑童子(シュテンドウジ)である。
お前達か、魔王の手下は?
魔王から連絡はきている。
これまでの首尾はどうだったんだ?
全て、順調です。
そうか、さすがだな。
おい、あれを持ってこい、と鬼王が部下に命令する。
目の前に並べられたのは、大きめの酒樽に鉄鍋やいろいろな道具類であった。
確認しろ、これでいいな。
この地は、神も手出しできない、じっくり作り上げるんだな。
そして、早く魔王を復活をさせてくれよ。
この人間界は魔界に変わる日が楽しみだ。
じゃあ、俺たちは引き上げるぞ。
大音響と共に、鬼王・酒呑童子(シュテンドウジ)と彼の軍勢は、また地の底に戻って行った。

ふう、何とか、準備ができたようだな。
しかし、恐ろしくて、冷や汗が止まらなかったぜ。
さて、一休みしたら、仕事に掛かるぞ。

では、この酒を、樽から鉄鍋に移すんだが。
この鉄鍋、大きすぎて1人では持てない、皆で力を合わせるんだ。
直径2mはある鉄鍋を、炉の上に置き、そこに酒を移し込む。
それだけでも、なかなかの作業である。
この酒、妙に色が濃いな、それに、匂いもすごいぞ。
当たり前だ、この酒は八塩折之酒(ヤシオリノサケ)だ。
そう、あの須佐之男命(スサノオノミコト)が八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治する時に作らせた酒だ。
丁寧に醸したお酒を用いて、更に又、お酒を仕込むということを8回も繰り返して醸造した酒だぞ。
色も濃くて、匂いもきついさ。
あの、巨大な八岐大蛇(ヤマタノオロチ)も、この酒を飲んで、眠りこけたのだからな。

この酒が煮えたら、そこに、須佐(スサ)神社から奪ってきた、天照(アマテラス)の涙を1つ入れるんだ。
天照(アマテラス)の涙が溶けて、酒の量が半分になるまで煮詰まったら、斑鳩(イカルガ)の大蛇(オロチ)の頭の石を1つ入れる。
更に煮詰めて、酒が無くなるまで煮詰めるんだ。
酒の最後の1滴が蒸発したら、鍋の底に、小指大の塊が残る。
その塊が完成品だ。
それを3回、3つ分作るんだ、いいな。
それから1週間の間、炉の火は燃え続けた。

< 6 / 32 >

この作品をシェア

pagetop