ナックルカーブに恋して

まだまだ夏の日差しが強く降り注ぐ、九月初旬。
週末を利用して上京してきた倉木君は、東京駅での出迎えを丁重に断って、地下鉄でインタビュー場所であるカフェにやってきた。


「お世話になります。」

深々と頭を下げたさわやかな高校球児を出迎えたのは、咲さんと、同じ出版社のスポーツ誌の編集者とライターだった。
いくら女性誌の企画とはいえ、ミーハーな質問オンリーではさすがに失礼だと咲さんが考え付いたのが、スポーツ誌とのコラボ企画。

今日のインタビューの真面目な部分はスポーツ誌の「この夏話題の高校球児」という記事にも使われる予定だ。
以前、「美人アスリートのビューティーアップ」という企画でコラボして成功した経験があるため、両誌ともこの企画には乗り気であった。

私は、どうやっても断り切れなかったため、雑用係として咲さんに同行していた。
正直、顔を合わせるのは気まずいと思っていたが、いざ会ってみると、彼は拍子抜けするほど、普段の通りだった。

「高野先輩、ご無沙汰しています。応援ありがとうございました。」

自然な笑顔を向けてきた彼に、私も笑顔で返した。

「お疲れさま。今日はありがとう。よろしくお願いします。」

彼をそのまま、貸切にしてある二階のテラス席に案内した。
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