ナックルカーブに恋して
「ごめん、ごめん。新幹線のチケット取れなくて。」
「だから、一回地元帰ってきてから一緒に行こうって言ったじゃん。」
舌を出した私の背中を思い切り叩いたのは、親友の明奈(あきな)だ。
二年前の夏まで、私と明奈は一緒に野球部のマネジャーをしていた。
卒業して東京の大学に進んだ私とは違い、彼女は附属の大学に進んだため、今でも地元暮らしだ。
「まあまあ、明奈。間にあったんだからいいだろ。」
ご立腹の明奈を横からなだめてくれたのは、がっしりしたいかにもスポーツマンという体型の男の子。
野球部の元キャプテンで、明奈の彼氏である浜中君だ。
高校球児に部内恋愛は御法度だ。
だから、二人がつきあい始めたのは勿論引退後のことで。
今では仲良く二人で同じ大学に通っている。
浜中君は大学でも野球部に入部。ポジションはキャッチャーだ。
「高野、親父さんも来てるぞ。」
一段上の席から飛んできたのは、同じく同級生の渡辺君の声だ。
スタンドの前方を見れば、すぐに見慣れた背中を見つけた。