ナックルカーブに恋して
約束、ふたたび
六年後…
球場に試合開始のサイレンが鳴り響く。
一斉に駆けていくナインに、まだまばらなスタンドから声援が飛んだ。
夏の地方大会。
母校、S大附属桜川の一回戦だ。
開始時間ちょうどにスタンドにたどり着いた私は、最前列に懐かしい背中を見つけた。
「浜中くん、白昼堂々サボリですか?」
「っおっ!何だ、高野かよ。サボリじゃねーよ、有給消化だ。」
「はいはい、奥様から聞いてますよ。」
相変わらずのふざけたやり取りをしてから、隣に腰掛けた。
浜中君は大学卒業後は地元の役場に就職した。野球は続けていないが、こうして、後輩の試合には度々駆けつけている。
「あ、この前はありがとな。」
「いえいえ、親友の明奈さんのためですから。」
「ああ、ほんとに助かったわ。」
この春、浜中君と明奈は交際八年目にして、めでたく婚約した。
浜中君がプロポーズの場所に選んだのは、母校のグランドで。
サプライズのために、彼女を呼びだすのが私の役目だった。
昔の仲間たちと部室の陰に隠れながら、親友がうれし涙を流すのを見守った。