ナックルカーブに恋して
「初戦突破、おめでとうございます。」
わざと他人行儀に声を掛ければ、彼は振り返って口を尖らせて見せる。
「来てたなら、こっち座れば良かったのに。」
「そんな、中立な記事を書くのに、思いっきり関係者の隣に居たんじゃまずいでしょ。」
「浜中先輩と一緒に三塁側に座ってたら、大して変わらないと思うけど。」
的確にツッコミを入れた彼は、勝利したのに不機嫌そうだ。
「決勝まで進んだら、ぜひ隣で取材させてもらおうかな。」
「決勝と言わず、甲子園まで行く予定だから、ずっと隣で見てれば、きっと良い記事が書けるよ。」
「すごい自信ね。」
「そのくらいのつもりでいないと、届かないことを知ってるからね。」
ニヤリと笑うその顔は、自信とともに充実感にあふれている。
その顔に、私は心からホッとしていた。