ナックルカーブに恋して
H大に入った倉木君は一年生ながら首都大学リーグで活躍した。
しかし、二年目の秋に肘を故障し、懸命に復帰を目指したものの、マウンドに再び立つ夢は叶わなかった。

思うようにいかずに苦しむ彼を、私は側に居ながら、そっと見守ることしかできなかった。
励ます言葉なんて見つからない。
どれだけ彼が頑張ってきたのか、知っている。
だからこそ、安易に頑張れとも、大丈夫だとも言えなかった。
ただ、夢をあきらめた日の夜、涙を流した彼をそっと抱きしめた。
あのいつも自信に溢れていた倉木君が、私の腕の中で肩を震わせている。
その背中は思っていたよりも小さくて、今までこの身体でどれだけの不安やプレッシャーと戦ってきたのだろうと思った。
翌日、彼は恥ずかしさのあまりのたうち回っていたが、私は今まで以上に彼のことを愛おしく思うようになった。

かっこわるくても、
スーパースターじゃなくても、
私が愛してるのは、
倉木君だ。
間違いない。

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