ナックルカーブに恋して

「倉木(くらき)は、すごい男だな。」
「倉木君だけじゃないよ。みんなの力だよ。」
「いや、そうかもしんねえけど。あいつは、あの時の高野との約束守ったんだろ。」
「どうだろ。そんな昔の話、もう忘れてるんじゃない?」
「忘れたなんて、言わせねえよ。じゃあ、何のために俺がお前に振られたんだよ。」
「…その節は、ゴメンナサイ。」
「謝るなよ。昔の事とはいえ、惨めだろ。」

部活を引退した後、渡辺君から好きだと告白された。
もう、二年前のことだ。
お互いに笑って話せるくらいにはなっている。


野手が守備位置に着いて、キャッチボールを始めた。
マウンド上のピッチャーが投球練習をしている。
試合開始のサイレンが鳴り響く。
観客の視線が、彼の投げるボールに集中した。

背番号1
倉木 亮(くらき りょう)
3年生



二年前、私を甲子園に連れて行くと約束した男でー

渡辺君のかつての恋敵だ。
< 5 / 33 >

この作品をシェア

pagetop