ナックルカーブに恋して
順調に築き上げられていく三振の山に、場内は感嘆の声を上げ、三塁側アルプススタンドは大いに沸いた。
打線も塁に出たランナーを確実に返す堅実さで、得点を稼いでいった。
最後のバッターへは、2ストライクに追い込んでから決め球のナックルカーブではなく、渾身のストレートを投げた。
完全にタイミングを外したバッドが宙を切り、ゲームセット。
終わってみれば、1ー7の快勝だった。
30年前は初戦敗退だったため、これが我が校の甲子園初勝利だ。
控え目なガッツポーズとともにはじけるような笑顔。
マウンド上の倉木君は、すでに私が知っている年下の可愛い後輩ではなくて。
どこか、手が届かないくらい遠くに行ってしまったような気がした。
私は仲間達と勝利を喜び合い、興奮冷めやらないまま、甲子園を後にした。