☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
テルが猛省している隣でワドは誠実にキングの器にそば湯を注ぎ込み、スープスプーンを添えていた。
「…」
なぜそばにスプーン!?
ヒカリが愕然としている目の前で、キングは薄く微笑んだ。
「ありがと」
その笑顔には悪意しか感じない。
「…」
戦慄を覚えたらしいワドはしかし取り乱さず、冷静に、しかし動揺を隠しきれていない。
主にさっきまでゆらりとも揺らがなかったワドの持ったポットの湯が、チャポンチャポンと暴れている。
分かりやすく言うと、目には見えないほどに小刻みに震えている。
「…可哀想」
小動物が虐められているのを目の当たりにしたようなそんな感動をヒカリは持ったのだった。
「…」
「虐めちゃだめじゃない、キング。震えてるでしょ?」
「こんなのはいじめに入らないんだ」
気丈にもそういってワドは目の前にいたウィングをぼんやりと見つめた。
要はいつもの無表情だ。
「傷をさらけ出したら楽になるとメスを片手に追い回されたのが“戯れ”だ」
「キング!?全世界のカウンセラーの名誉にかけて今すぐ出頭して!?」
涙ながらにキースが叫んだ。
「フフフフフフフフ…そうだな…フフフフフフ…」
しかし肝心のキングは不敵で不気味にそういっただけだった。
「心を開くどころか閉ざしてるじゃない!!そんなんでよくやってこれたね!?」
「しかしだなキース君。俺が筋金入りのSだいうことは認めよう。だけどな?よく考えろよキース」
そういってキングは至極楽しそうにワドを指さした。
「あの美少年を痛めつけたいと思わない方が異常だろ?」
気丈にも黙っていたワドが触れたテーブルが、瞬間激しく震えだした。
「よし分かったキング!!全人類の名誉にかけて今この場でできうる限りの懺悔をした後首を吊れ!!!」
普段はおとなしいキースが激高したというその事実におののいたウィングは目の前の恐怖に打ち震える美少年を不覚にも見上げてしまった。
「っ!!」
無表情かける10、いや下手したら10乗に届かんばかりの無表情。
なんてことだ、感情が、感情が、感情が…
「読めねぇぇぇぇっっ!?」
どういうことだ、ちょっと待てこいつは人形だったのか!?
いやそうなのか!?
生きている人間なら多少は表情とかあるだろ!?
呼吸だって表情だろ!?
生まれてくる前ですら表情筋は動くんだぞ!?
無いぞ!?
さながら宇宙が生み出される前の世界のように何もない!!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
生物がこんな無表情を作れるものか!!!
作れるのだったらワインレッドのご先祖様、知能の前にまず表情を!!
コミュニケーション能力を!!
なぜ発達させなかった!?
「化けもんだぁぁぁぁ!!」
生物において微生物のあたりから全く別の生き物だったに違いない。
こんな顔のできる人類がいてたまるか!!!
こいつは人じゃない、人の形をした鉄だ!!!
無機物だ!
誰かが無理やり無表情という題名を付けて作った芸術だ!!
「ずいぶんと酷いことを言ってくれますねウィングさん…それは何ですか、いささか私に対する配慮が足りなさすぎる気がしますが…?」
「悪かったよリアル無機物!!!」
「私は熱したら二酸化炭素を出して燃えます!!間違いなく有機物です!!」
「じゃあ突っ込むな!!」
そっか、ゼロは有機物でできてるのか。
ウィングは新たな発見をした。