☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
「…やっぱ一回絞めてやる…いや、殺してやる…」
「あは、おいおい怒んなって…」
キングと仲良さげに歩いていたテルは一気に殺気を吹き出し、ウィングを睨む。
「俺のものなのに…俺の…俺のワドをよくもぉぉぉぉ!」
「あ、テ」
テルは胸元から短剣を抜くと構えて突進した。
「おい待てヤバいって離れろ頼むからおい!」
「駄目だ…さっき言ったように俺は」
「駄目駄目駄目俺の命の危機なんだよ離せってばこの美少年!」
「だからお前は俺の唯一の…」
「んだとこのやろクリアス=ウィング!てめぇ絶対ぶっ殺す!」
「だから冤罪だってのに!」
唯一のに反応し、テルは半乱狂でウィングに襲いかかる。
「…ご主人様…」
気がついたらしいワドが無言魔法で防御壁を張った。
「ご主人様愛してるよーいえーい」
「…」
い、いえーい?
「本当に!?マジで!?」
「うん何より愛してるよいえーい」
「…」
無表情でピョンピョン跳ねて大きく腕を広げているワドにウィングは戦慄した。
「いえーい、ご主人様、俺の胸にとびこぐへぇっ」
「…」
鳩尾に綺麗な頭突きが決まってしまい(悪気はない)途中でうめくはめに。
「ワド!ついに俺の愛を受け入れてくれるんだね!」
「いえーい、ご主人様みらくるはっぴぃー」
「…誰だこいつ…」
俺の知ってるワドは絶対はっぴぃーとか言わない…
偽物だ!
「本物だぞウィング。失礼なやつだな後で蜂の巣にするぞ」
「あ、あの戦法を貫くのか!?」
お前はプライドとか誇りとかないのかよ!
「…あるか、馬鹿」
「きゃー!?ワドだよね、ワドだよね?」
「わふー、マジいけてるぜシルンっち、さすがファッションセンスがガンガンだぜぇー」
「…」
まさか登場ってクルーのか!?
こいつはヤバいどうしようとウィングは頭を抱えた。
「なーこの風やろーが俺のことディスるんだよぉ、一発お見舞いしねーかぁ」
「駄目だこれ」
台詞じゃ誰かわかんないじゃんか、とウィングはうめいた。
「あれ、ハネムーン終わったの?」
「キースぅん、ふぅえん、ウィングがいじめてくるぅー」
「…駄目だ、もう駄目だこいつの威厳がこれ以上落ちる前に殺っちゃおう」
「殺るなら一思いに殺るなよ。たっぷりなぶれ」
「なんでガチャって変わるんだよこの百面相!」
「キースぅん、慰めてぇ」
キモい、マジキモい。
ウィングは完全にどん引きした。
でも大丈夫、もうすぐで360度一回転して戻るはず…
「あれ、待ってよシルン…」
うっしゃヒカリきたぁぁぁ!
「ヒカリ、シルンの命は貰ったぜ。返してほしければ俺を殺して進むんだな」
「はぁ!?」
何故戻らない、こいつはこんなやつじゃないぞ!?
そこでウィングはハッとする。
そうだ、95度回るんだ!
何てこった戻らねぇとぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「…ワド?」
そこでようやくテルが異変に気が付いたが、一旦ワドの視界から外れたせいで。
「はぁろぉ、わふー、船長あいらぶゆぅのワドだよぉ」
「お前どうした…」
「キャラがブレるからいっそガンガンずらしてやろうという作戦らしい…」
「…中身も報酬も何もないんだけど…」
「しかも選択が無駄にキモい」
「ああ、それはたぶん俺の願望と妄想を反映してるだけだから気にすんな」
「おい一体どんな妄想だ!お前の中のこいつって一体なんなんだ!?」
ウィングが叫んだが、まぁまぁの一言で黙殺されてしまった。
「…なぁ、とりあえず元に戻ろっか、ワド」
「…やっぱりギャル風は駄目だったか」
「戻った!?マジか!?」
「…当然だろう、俺は」
着せ可能な人形だぞ、とワドは言った。
「容姿も中身も能力も、変化自在の理想の人形」
さあさあお立ち会い、とワドは観衆に向き直った。
「主人のあなたの理想ならどんな無茶でも叶えます、10ドルからどうぞ」
「やっす!?」
「つか売るな!」
なにセールス始めてるんだこの馬鹿が、とワドはキングに殴られ気絶させられ、担がれてスーツケースごとつれていかれてしまった。
「…うーん、あの食器売るとこ見たかったんだけどな…」
キースはとても残念そうに言った。