☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
「…ルン…シルン…頼む起きてくれ…シルン…シルン…」
激しく揺さぶられているようにグラグラと体が揺れる。
軽く呻いて目を覚ますと目の前にキングの顔があった。
「よかった!起きたんだな!!」
「こ、こは…」
「軽いショックで気絶しただけだったみたいだね。よかった」
「キース…?」
「うん、キース。キングもワドも起きてるよ」
「ワド…?」
「そっか、助けられる前に意識失ったのかぁ」
にこにこと人なつっこい笑顔を浮かべているキースは微笑んでシルンを気遣うようにゆっくりと話し出した。
「二人が倒れた後、ワドが出てったんだよ。それで比較的近くに倒れてたキングを引っ張り込んでシルンも助けに行ったんだ。でもやっぱり息が続かなかったみたいでここで倒れたんだよ」
「ワド…が…?」
「うん。シルンはね、吸えると思ってた酸素が体の中に入らなくて、すっごく体がびっくりしちゃったんだよ。そのショックで心臓がパニックになっちゃったみたい。でもワドはただの酸欠だから大丈夫だよ」
物凄く優しい。
こういうところがキングには足りてないんだとシルンは改めて思った。
「大気圏に近づくときに燃えないように酸素を完全に真空に放出して窒素とかをまとうのは知ってるよね?それをやってる途中だったんだけど、ウィングが途中で止めてたみたい。だから許してあげてね」
「うん…」
そういえばあいつのせいだった。
でもいいや、とシルンは目を閉じる。
こうして助かったんだから…
「ワド!頼むからもうやめろって!!」
「だって、だって俺は…」
「お前に非はないっての!おいこらメス持たない!!」
「俺は…」
「手首切ろうとするなぁぁぁぁぁ!」
慌ててワドのメスを取り上げて、なるべく危なさそうなものを遠ざける。
焦点のあっていない瞳はゆらゆらと危なげに揺れて、今度は包帯を目にとめた。
「スットーーーーーップ!!」
テルはゆっくり首を絞め始めたワドから今度は包帯を奪う。
「おい!なにアルコールランプ逆さにしてるんだよ…ってこらライター持つな!!」
とぽとぽかけながら左手で火をつけようとしたワドを止めてテルは頭を抱えた。
「やめろ枕に顔を押し付けるな!!」
どうして集中治療室というものの中には凶器がたくさんあるんだろうか。
「まてまてそれ心臓マッサージ!!おい!感電したいのかよ!」
「…」
「ちょっと待てそのメスどこから持ってきた!!」
「…」
「アルミ箔で口をふさぐな!!」
「…」
「おい!ガーゼで首絞めるなぁぁぁ!!!」
なんてこった。
テルは仕方なくワドの両腕を拘束してしまうと猿轡ををかませて息をつく。
ぼーぅっとしながら次から次へ自殺を試みるワド。
「お前は悪くないっての…」
そっと血の気のない頬に触れると酷く冷たかった。
ふい、と顔を背けたワドをため息交じりに見つめながらテルは笑う。
「いい?お前は悪くないからな…」
「…」
「…ごめんな、さぐふっ」
「だ、誰だ!!」
「ごめんなさいとご主人様は禁句って」
「もういいよ!許せよ!!」
全力でワドを守りながらテルはキングをにらんだ。