☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
地面にかすかに音を響かせながらワドは先導している男に近づいていく。
「あれ!やっぱL様だ?ここにいるって本当だったんだねぇ」
「Jさんですか。なぜここにいらっしゃるんですか」
「やだなぁ敬語なんて。落ちこぼれの俺に、さっ!」
「やめてください」
あいさつ代わりとばかりに手に持った鉄パイプを振った男はワドを焦点の合わない瞳で睨み付ける。
瞳孔が異常に大きい。
ワドは感情なくその瞳を見返した。
自分に敵が多いのはわかっていたことだし、そのために色々崩していった。
壊されたもののために俺はここにいるんだ、と口の中で呟く。
「Jさん、俺はこれ以上何も失いたくないんです」
「ハハハハハ、王子様がよく言うねぇ、ハハハハハ!!」
「…」
ひたすらに笑い続ける男に、冷たく、無感情な視線を投げかけるワドからは、何一つ感じられない。
「ワドはん、わてがいきましょか?」
「引っ込んでろ外野」
「そういうこと言う口なんやなぁ、あんさんも」
「黙っていろ。俺の問題だ」
「トドメ、させへんとちゃいます?」
「俺たちに危害を加えなければいいだろう」
ああ、甘い…
ウィングは天使の微笑みを浮かべながらワドの肩に手を置いた。
「あんさんは、目ェ閉じてればいいだけなんやで?」
「黙れウィング。トドメくらい刺せる…」
「そうかいな…?本当に」
全く感情が見えない横顔はどこまでもガードが堅い。
ウィングは諦めて引き下がった。
「頑張りなはれや、ワドはん」
「…」
最後に、ワドはウィングを一瞬だけ見た。
あまりにも冷たく、光の灯っていない瞳に柄にもなく動機が早まるのを感じたがウィングは最後の最後まで笑っていた。
「攻撃系魔法、サンダー!!!」
「防護壁」
ギラリ、とワドの瞳が輝いたのが見えたのだろう。
狂気を浮かべたような声にバチバチと跳ねる雷の音が重なる。
「空間硬化!」
ギン、と空気が揺れてワドが一瞬顔をしかめた。
「強制解除」
「アハハハ、何で受けてる一方なんですかぁ?」
「…」
相変わらず冷たく相手を見つめているワド。
静かにつぶやかれた魔法はすべて受け身だ。
「コンボ!!」
「…」
三角の輪が次々とワドの前に現れる。
ワドはただそれを静観していた。
「円陣浮遊~!クラップ!」
いっそ美しいといえるまでに一斉にワドに襲い掛かる三角の輪。
見ていたシルンはつい息をのんでしまう。
爆炎が上がり、煙が晴れていくと球体のものが現れた。
「ボールシールド」
「!!」
綺麗なボールを消しながらワドは軽く息をついた。
「今のが最上の技ですか」
地面がえぐれ、クレーターのようになっている。
傷一つないワドは左手を地面とほぼ平行に差し出した。
「気になることは色々あります」
ずっと一歩も動かしていない両足は全く動かない。
「でも、安らかに死んでいただきたいんですよ、Jさんには」
あまりにも冷たい視線は暖かくなることすらなかった。
「俺、先パイのこと、とても尊敬してるので」
皮肉なのかすら分からない。
ただ、男の姿はなかった。
逃げたのか。
一瞬ウィングはそう思ったが。
死体さえ残らない、文字通りの消去によって、彼は消されていた。
それを死というのかはわからないけれど。