☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
「シルンさん、L君が呼んでいました…」
「私を?」
「はい…」
フラっと歩き出したゼロにシルンはひょこひょこついていく。
「何で?」
ゼロはあの魔法陣の部屋の左側奥のほうの扉を開け魔法陣へ飛び込んだ。
「…ちょっと」
飛び込む、というよりは落ちる、に近いような魔法陣の入り方にシルンは顔をしかめる。
すっかり慣れたシルンは、パタン、とガラスの扉を閉めつつ、魔法陣へと足を踏み入れた。
「ああ、呼んできてくれたのかありがとう」
「そうですよ…L君…だから入界の許可が下りないんですがどうしろっていうんですか…」
「別に勝手にすればいいだろう。部屋なら用意する。朝食昼食夕食間食付きでな」
「そういう問題ではないんですが…」
「お詫びのしるしに腕でもやろうか」
「いりません…」
「ホルモン焼きくらいなら作れるからいつでも好きな時に言え」
早速ぶつくさ言い始めたゼロを押しやってワドはシルンを呼び寄せる。
「水晶の輪切り、こういうことだシルバーレインボー」
レーザーカッターで次々とコインくらいの輪切りになっていく水晶。
ワドは一つ一つを目視で不良品と製品に分けていた。
そのうち赤の一つを手に取ると、ワドはシルンの手に握らせる。
「これは魔力の塊だ。これがあれば魔力が少ない場所でもこれだけ分の魔法が使える」
「私には使えないんでしょ?」
「まぁ、な」
そういって一度シルンから水晶を取り上げ手で包み込んでもう一度シルンに渡す。
水晶はかすかに輝きながらシルンの手の中で震えていた。
「それは戦闘系魔法の水晶だ。今サンダーボルトを封じ込めておいた。そこの石に投げてみろ」
ワドが指さしたのは大きめの石。
さっきまでなかったところを見るとワドが創ったものだろう。
シルンが軽く蹴ってみるとかなり固い。
人が壊すのは至難の業だろう。
きっと。
「投げるって…どういうこと?」
「そのままの意味だ。投げるんだ、その石に向かって」
不審に思いながらシルンはコイン大の水晶を投げる。
水晶は石に当たった瞬間に一瞬光りを放ち、バチバチという音を響かせて石を粉々にした。
「きゃぁっ」
「攻撃魔法、サンダーボルト。その水晶があればいくらでも、誰でも魔法が使える」
そういっていくつか赤と緑の水晶を手に取るとワドは一気に魔法を放った。
「赤は魔力封じ、サークル防御、緑は外傷完治、環境適性の水晶だ。戦いのときに使うといい」
「あ、ありがとう…」
どれがどれかは分かるな、と言ってワドは小首をかしげる。
「万が一悪魔や天使と戦いを強いられるようなことになったら倒そうとしないでこれを使って生き延びろ。俺が助けに行くから」
「でも、これだけあるんでしょ?魔力封じなんてのもあるし…」
「魔力は封じられてもそれを解除される恐れがあるだろう。ドリームパワーもある」
「…ん、わかった!ワドのこと頼りにしてるからね!!」
「ああ」
そういってワドは今度はペンダントを取り出した。
「かけてろ」
ちょうど心臓と頸動脈の位置に水晶が当たるように微調整すると、ワドはシルンの髪をすいた。
「お守りだ」
わずかに微笑みかけられたような気がして、シルンは赤い顔を隠すように俯いた。