☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
霧吹きの霧の中で作られたうつろな虹を見て、顔をしかめた。
あんなのは空気中の水分が日光を反射しておきる、所詮は現象。
夢を連想させる、それでいて知ってしまえば面白くもなんともない。
特に、虹は嫌いだ。
もう姿もおぼろげな弟が今の自分を見たら失望するんだろうか。
らしくない、なんて言ってみても、何がらしいのかわからずじまいで、自分の頭を少し強めに殴ってみた。
今作ってる自分らしくないのか。
そう思うと面白みもくそもない。
「よお、あんさんかいな」
相手は返事をしない。
それでもいい。
そんなことは契約にはないから。
「元気やったやろ?」
「…」
無言で向かいの椅子に腰かけた自称二十四の青年。
自称というのは別に皮肉でもなんでもなく、ただ確認が取れないだけだ。
ウィングは加湿器を丁寧にさりげなく停止させると、代わりに乾燥機を動かした。
みるみる湿度が減っていき、あっという間に湿度計は1と10の間をうろうろし始める。
「で、どうなんや?調べてもらえるんならそれに越したことはないで」
「船長の素性だろう。分かった」
「そうなんか。そらどうも」
教えてくれとも、教えるともいわない。
何故なら、まだ契約は完了していない。
「情報の方は」
「正解やからなぁ。四元の一次連立方程式作っとるみたいやった」
「確実に?」
「魔界の頭脳派とやらはあんさんの方が詳しいんとちゃう?」
そうだなとも言わず相手…アイスは少し間をあけ吐くように言った。
「人工物の人間なんてただの物だ」
「物の方がすきや」
間髪入れずにケタケタ笑ってウィングは人懐っこい笑顔を浮かべた。
「そんなんきいとりはせぇへんで?」
「必要がなかった。どうせ427が輸送したんだろう。あいつのやることは読めない」
「読んだらスーパーコンピューターでも容量オーバーでっせぇ」
あんさん命拾いしたやないか…
そういってまたわらったウィングにアイスは無言で返した。
またしばらく沈黙が続き、アイスが唐突に口を開いた。
「427は俺を恐れてるようだ。この分だと早く地獄に連れ帰れる」
「へぇ」
「ちゃんと“芸”も覚えていた。記憶から消えても致し方ないと思っていたが調教のし直しはしなくてもよさそうだった」
「手間が省けてよかったやないか」
「…」
そうだ、こいつは看守じゃない。
超合理主義者で実利主義だ。
感情論なんてないんだった。
“芸”が何かを聞かない人間は天使も悪魔も神さえも、知っているもの以外はこいつだけだろう。
仮にも同じ屋根の下で過ごしたのではないのか。
「あんさんは同情するんか?」
いやしない。
囚人と接しているうち同情心が芽生えてくる看守は少なからずいる。
特に、427のように幼く、従順で、美しく、深く懺悔を感じているような罪人に対しては。
俺にもし心があったならば、同じ赤い血が通っていたならきっと427はとっくに自由の身だ。
自分と同じ人間がこの世にもう一人いるなんて。
看守以外の生き方をしているなんて。
不思議で、異質だった。
「…ああ、もうそろそろきたみたいやで。意外に早かったんやな」
陽気に笑ってウィングはアイスのために扉を開けた。
「よろしゅう」
手を振ることなど無論なく、アイスは二人目の大切な囚人のもとへ向かった。