☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
ゼロは、ひたすら走っていた。
戦闘能力があるとはいっても、スーパーマンではない。
真空だろうが何だろうがぴんぴんしている化け物とは違うのだ。
それなのに血路を開かされている自分が嫌になってくる。
ゼロはため息をついて幅3,4cmの薄く、柔らかい瞬間形状記憶合金を振り回した。
振えば遠心力で伸び、その反動ですぐさま金属はゴムのように戻ろうとする。
だが振り回しているのはあくまで金属。
当たればただでは済まない。
斬りつけ、殴り、締め付けて引き寄せながら不健康な体を引きずりつつ前へ前へと進む。
核ミサイルでも打ち込んでやりたかったがどこにいるかわからないワドが木っ端みじんになることは避けなければならない。
ミサイルくらい魔法で防げるだろうが、やる気のないのが難点だ。
「L君…昔から変わってほしいところばかりそのままです…」
たとえばひどいいじめにあったとき気にしているのが門限だけとか。
車にひかれそうな子供を助けるために自分が犠牲になるとか。
課題をこなすため青白い顔で点滴を引きずりながら研究所を夜な夜な徘徊するとか。
大事なところがずれている。
とても、とても大切なところが。
反抗期が一番まともだったと改めて知ってまた深くため息をついた。
「…」
しばらくして歌が聞こえだした。
まぎれもない天使の歌声。
あれはワドだ。
「L君…」
あろうことか地獄の囚人が贖罪を表明する曲だ。
それをハープだなんて趣味が悪い。
ワドが弾いているようだが、強制されていることは確かだ。
しばらくして、歌が途切れる。
また再開し、フィナーレへと一直線。
その時だった。