☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
叫び声をあげてのたうち回るキースをウィングは冷たく見下ろしていた。
「あああ、僕の、僕の、僕のぉっ!!」
壊れていくキースのすでに飛んだ左腕をポーンと無造作に放る。
ジャグリングのように何度か受け止めてはまた放り投げ、それをいくらか繰り返すうち、キースは動かなくなっていた。
気絶でもしたのだろうか。
うつ伏せになっていたキースの体を仰向けにすると、驚いたことにまだ意識はある。
「ウィ、ん、グ…ゴホッ…お願、い、もう、やめよ、う、よ」
「…」
「もう、しん、じ、て、いいか、ら、いわな、い、これ、は、て、きに、やら、れた、きず、だから…」
こんなにされてまで自分を救おうとするキースには一種の畏敬の念すら抱かせる。
でも浮かんだのは侮蔑の嘲笑で、ウィングはクスリ、と微笑んだ。
「知ってる?そういうやつをさキース」
涙をながすその綺麗な瞳に語り掛けるようにウィングは一文字ずつ大切に言った。
「天使と書いて、馬鹿っていうんだよ」
真空に包まれた死の空間で、キースの叫びがこだまして。
やがてそれもやみ、静まり返ったそのころ、ウィングはとどめを刺すべく、首筋にぴたりとワイヤーを這わせた。
「さよなら、俺の大切なキース」
涙ひと筋浮かべることもなく、突然姿も気配もなく襲い掛かった剣のつかに殴られて、そのままウィングは意識を手放した…
う、と呻く音がして二の腕から下がないキースの腕がピクリと動く。
ウィングはゆっくりと上を向いて、寝ているふりをする。
ウィングを殴った張本人の声がした。
「よお、起きたのか!よかった!!」
何がよかったんだ、ウィングは瞼の裏にキースの悲鳴を響かせた。
「…ここは…?」
「ん?船船!かなりボロボロなキースを担ぎこんでから約14時間が経過」
おどけて笑う声が聞こえる。
何が楽しいんだ、ウィングは鼓膜に響く悲鳴をかき消した。
「…ウィングは…?」
記憶が戻ったようで、キースは心配そうに聞く。
「ああ、腕は起きたらワドが作ってくれるよ。眼はどうだろうね、ワドに聞いたらわかるけど何しろ本人が昏睡状態でさぁ。キングによれば…ってあいつもほんとに起きたの近頃だけどさ、なんとか行けるかいけないか、だと」
「ウィングは…」
「隣に寝てるよ」
簡潔に、簡単に。
それだけ言ってテルは立ち去ったようだった。
「一応その辺歩き回れるよ。リハビリがてら散歩しとけ」
そして、部屋を静寂が包んだ。
相変わらず隣の赤髪は眠っている。
身じろぎ一つせず昏々と眠り続けているらしい。
死んでても変わりそうにねぇな、とウィングは他人事のように思った。
カタン、と聞きなれた音がした。
固いものと固いものを合わせる音。
キースの義足。
「ウィング…」
また音がなくなって、ウィングはそっと目を開いてみた。
「ウィング…!」
片目を失ったキースが、ウィングの顔を覗き込んでいた。