☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
数秒だったか数分だったかは分からない。
ウィングにとっては、あまりに長い時間だった。
「キース」
声はかすれていて、まるで重傷人のようじゃないかとウィングは自嘲する。
重傷人はキースだ。
「なんやぁ、生きてたんかいな」
嘲笑うようにそういって、ウィングは目を閉じた。
少し寝かせてほしい。
「ねぇウィング」
言いかけたキースを押しとどめるようにウィングはため息をつきように一息に言った。
「説教ならきかへんで…」
予想以上につかれている自分の声に少し驚いて、他人事のように笑う。
キースはそんなウィングを見て、幸せそうに笑った。
「ううん、ただ、生きててよかった!!」
主語がないで、そう言いかけて、轟音が響き渡った。
正確には、バン、というとある人物が扉を何の遠慮もなく開け放った音だ。
「ワドぉぉぉぉ!!!」
見ればうっすらと風もないのに赤い髪が揺れている気がする。
が、気がするだけであって呼吸が漏れているだけだと言えばそうなのだろう。
だがしばらくするとご主人様、といううめき声に近い声が上がり、ガサゴソと身じろぎしているらしいことがわかる。
「良かった、よかったぁ…」
半泣きの状態でテルは寝かされているワドに近寄り、優しく髪を弄ぶ。
「痛いとことかは?大丈夫?」
「はい…」
一体どこが大丈夫なのか分からない弱弱しい返事で、それでも満足したのかにこっと笑いかけて、起きられる、と声をかけるテル。
ワドは曖昧に頷いて、体を起こそうとしたのか両腕に力をこめ、そして手を引っ込める。
「ばーか。ケガしたの指中心だっての」
わきの間に腕を差し込み、テルはワドを軽々と抱き上げるようにして立たせる。
近くの点滴台を引き寄せ、ワドにつかませるとテルはゆっくりと歩き出した。
辛ければ、ワドが体重を預けられる位置。
両腕を絡みつけるようにしてようやく立っているワドのすぐそばを歩き、テルは時たまゆらりと危なっかしく揺らぐワドを支える。
ごめんなさい、と小さくワドがつぶやいて、何言ってんの、とテルが笑う。
「甘えていーの。ケガ人さんはさ」
ゆっくりと歩いていくワドにペースを合わせするするとテルは扉を開く。
それがまた閉まる直前、思い出したようにテルがつぶやいた。
「もうすぐ飯だぜ。来いよ“キース”」
閉められた扉をしばらく見つめて、もう俺はこの船の“船員”じゃないのか、なんて当然のことをウィングは思って、やっぱり自嘲的に笑う。
「お呼びみたいやで、キースはん」
何故キースが苦しそうな顔をしたかなんてウィングには分からなかった。