☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
次の日は、あのシルンちゃんに揺さぶられて目を覚ました。
「おはよ、ワドが帰ってきたから」
「…はい…」
寝起きのボーっとする頭でシルンちゃんを見つめる。
「大丈夫?顔洗う?」
「いいえ…」
そのとき、トントン、と品のいいノックがきこえた。
…なるほど、あの二人からは考えにくい行動だ。
「どうぞ」
勝手にシルンちゃんが答えると遠慮がちにドアが開いた。
「気分はどうですか。回復してきてると聞いたが」
現れたのは赤髪の男の人だった。
グッと背が高く、全身黒ずくめの服とブーツ。
瞳まで攻撃的な赤色で、まさに旅先から帰ってきたばかりのようなコートを羽織りフードを取り払った。
「だいぶいいみたい!ワドお帰りなさい!!」
「ああ、お前も元気みたいで安心した」
かっこいい!!!
そこらのアイドルよりよっぽど!!
「どうした」
「見とれてるのよ」
どやぁ、と音がしそうな顔でシルンが言った。
「…見とれて。」
「うん。そんなわけないだろ的な空気出さないで」
何気なく腕を組んでいるシルンちゃん。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はワインレッド。ワドと呼ばれている」
「あ、はい、はじめまして」
「…なるほど。地球ジャパン人…であってるな」
「え!?」
「ジャパニーズだろう、しゃべってる言葉が」
「はい日本人です…」
「きていたのはジュニアハイ・スクールのユニホームか」
「え!?」
ジュニアハイ…Junior high?
中学校ってこと?
というかなんであの二人より格段に鋭いんだろう…
「!」
え、制服見たってことは…
「生徒手帳!!」
「個人情報にかかわるものは見ていない」
…
紳士的…というか…お人よし?
「で、だ。純人間のことだからあって早々いかれたテルを精神疾患か何かだと思ってたんだろう」
「違うんですか?」
「素直だな」
「どうも」
「確かにおかしなところはたくさんあるかもしれないが、基本的に問題はない。お前らの世界で言うNo-problemだ」
やけにいい発音でそういったワドさんはいるか、と緋香莉に向かってマグカップを差し出した。
「ミルクだ」
「…あの、知らない人からもらったものは飲んじゃいけませんってお母さんが」
「そうなのか。残念だ」
意外にあっさり諦めたワドさんは相変わらず紳士的にカップを傍らに置く。
「まずは、お前の名前だ…ああ、分かっている。お母さんに知らない人に名前を言っちゃいけませんって言われてるんだろう」
「…はい」
「21世紀のジャパンはだんだん地域交流が少なくなってきているんだろう。残念だ」
「…はい」
ジャパンって何とかならないんだろうか、と緋香莉は首を傾げた。
「俺にだけでもいい。お前の名前や素性が知りたいんだが、話せるか。無理ならいい。あったばかりの男に名前と連絡先を教えてたら命がいくつあっても足りない」
「…あの、シルンちゃんがかまってアピールを続けてますよ」
「…おいシルン、後で遊んでやるから今はゼロで我慢してく」
「あの低血圧だけは絶対いや!!!」
「…そうか」
何故か思いっきり首を横に振って拒否を示すシルンちゃん。
「それでだ。話す気は」
ワドさんは信用できるんだろうか、そう思ったけれどまだ確証が持てないので曖昧に肩をすくめてみる。
「…お前さえ良ければシルンを下がらせる」
「何に遠慮してるのワド!?」
「いや、お前はともかく年頃の女の子が男と一緒にいるのは抵抗があるかと」
この人は自分の顔を見たことがないのだろうか。
「別に…いいですけど…」
「そうか。それじゃあシルン、下がれ。…殺気を飛ばすな。大丈夫、俺は誰も好きにならない」
むくぅ、と膨れながらシルンちゃんはいなくなった。
「偽名でもいいが、名前を聞かせてくれ。固有名詞は必要だ」
そういわれ、緋香莉は少し迷った後に独り言のように呟いた。
「ヒカリ。ホシカワ=ヒカリっていいます」
そうか、とワドさんは特に何の反応も示さない。
「いい名前だ、ヒカリ」
それだけ言って、ワドさんは座っても、と私に声をかけるとそのままベッドに腰かけた。
「お前に限らず誰もが信用しない、したくない話をしようか」
そういえば、と今更ヒカリは思った。
私を納得させるために、この人は来たんだった。