☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
「う~!!眠れないよー!!!」
昼間たっぷり寝たせいか、それとも時差ボケか、ヒカリはベッドの中で悶々としていた。
寝たいと思えば思うほどに目は冴えてきて、ついに諦めてヒカリはベッドを出た。
「ちょっと星でも見てみようかな…」
ヒカリは部屋を出て、メインルームを出て、また甲板に出た。
時刻は午前二時。
星は相変わらず輝いていた。
まるで泣いているような輝きに哀愁さえ漂わせた青い星。
そういえば、とヒカリは社会で習った宇宙飛行士の有名な言葉を思い出した。
「地球は青かった…かぁ」
地球の青がどんな青なのかは知らないし、正確には青だけじゃないだろうし。
強い輝きを放つこの星たちは似ても似つかないんだろうけど。
ヒカリには少なくとも、たくさんの地球が輝いているように見えた。
しばらくそうやって、悲し気に輝く星を見つめて、ヒカリは目を閉じた。
「ん?」
視界を奪われて、突然研ぎ澄まされた聴覚によって、ヒカリは微かにすすり泣く声を聞いた。
誰だろう、とヒカリはそっと声のする方へ向かう。
「…」
すすり泣く声はだんだん大きくなっていく。
ヒカリのいた反対側のその場所で、月光のような光が見えた。
「…!」
その光に照らし出されていたのは、蒼白な肌。
あとからあとから流れ落ちる涙をぬぐう、ワドの姿だった。
「…」
何も話すことはなく、ただひたすら涙をぬぐい続け、時折鼻をすする。
長い足を窮屈そうに三角に抱え込み、その足にいくつも水滴が滴る。
異様に長い睫毛が涙に濡れてキラキラと輝いていた。
ヒカリは言葉をなくし、見てはいけないものを見てしまった気がして、思わず目をそらした。
次にその美しさに絶句した。
完全な美は揺るぐことをしない。
零れ落ちる涙一つが芸術で、そこだけがまるで絵のようだった。
それだけに、現実味に欠けていたのだけれど。
「…」
「…!」
「…しー。」
突然口をふさがれて、ヒカリは抵抗しようと身をよじる。
相手はそんなことを気にもかけずにヒカリを振り向かせて音もなく笑う。
「…」
暗闇のテルは悪戯っぽい笑顔で肩をすくめた。
「かえっていいよ」
口の形だけでそういうと、テルは滑るように動き、絵の中へ…つまりワドのそばへと近寄った。
「…」
「!!」
「…」
「…」
「…?」
「…」
「…」
「…」
「…」
ヒカリには小さな声で話す二人の会話は聞こえない。
テルがそっとワドの肩を抱くと、ワドは身をよじって逃れようとした。
「…」
「…」
「待て!!」
「!」
逃れ、離れようとしてびくっと身をすくませ、ワドが縮こまる。
テルはそんなワドに近寄り、よしよしと頭を撫でる。
「…」
「…」
ヒカリはテルが一方的に座り込んだワドを抱きしめたところで今度こそ目をそらし、その場を離れた。
「…」
部屋に戻って静かに目を閉じると、不思議と眠気に包まれる。
「そういえば…」
あの二人の関係って、何なんだろう。
友達、だけでは何でか説明が付きそうにもなくて、そんなことを思っているうちに、ヒカリは目を閉じた。