☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
「あ、おそよう」
「よく眠れた?」
ヒカリが部屋を出ると、メインルームのダイニングらしきガラスのテーブルでキングとシルンがトランプゲームをしていた。
「うん…」
「へぇ、じゃあよかった。…っていうかなシルンちゃん?早く選べよ」
「いいじゃん、時間制限はないでしょ」
「じゃあつけよっかぁ?」
「うわ最低!!さっき自分も迷ってたくせに!!」
やいのやいのといいあっているシルンとキング。
トランプは最後の三枚で、二人の間には山のように捨てられたトランプが積まれていた。
「おいシルン、左とれよ」
そこへウィングが割って入ってきた。
どうやらウィングは先に抜けていたらしい。
ヒカリは肩をすくめた。
うそっぽい。
「えぇーじゃあ右!!」
「なんでやねん!!」
「信用できない!!」
「堂々と言うな!!」
シルンちゃんも同意見だったようで、あれだけ迷っていたのがウソのように向かって右を取った。
「やった!上がり!!」
「うわぁ、シルンちゃんに負けるとはやばいわぁ」
「なにそれっ!ていうか、やっぱり嘘だったじゃない!」
「俺はキングから見て左ゆうたんやで~!!」
「うわ、屁理屈!!」
シルンがウィングと喧嘩しながら、それを横目に見てキングが山になったトランプをそろえ始めた。
「わりーな、俺抜けるわ」
「なんでだよ、なんかやることあんの?」
「キースの手伝い」
「邪魔しに行くんじゃなくて?」
「あは、ご想像にお任せする」
キングはそういって愉しそうにいなくなった。
「つか、ちょうどよかったじゃん、一緒にやろうぜ彼女!!」
「名前何なの?私知らない」
「あ、ヒカリって言います…」
「変わった名前、あ、そっか人間だから」
「そういや、俺らのこと信用してくれたんやな。良かった良かった!」
できればあなたのことはあんまり信用したくないんですが、とは言わずヒカリは曖昧に笑ってごまかした。
「次何する?」
「トランプじゃないんですか?」
「なんでもいいけどさ」
「何でもあるよ」
「…なんでも、ですか」
確かになんでもありそうだけど…
「じゃあ、ウノってあります?」
「うの?」
「UNO、です」
「うーん、知んないけど…あるんじゃない?ワドに聞いたら…」
「どんな外見よ」
ヒカリはとりあえず説明してみたが、ウィングはしらーんとそっぽを向いた。
「そういえば、そんなようなのはあったっけ?」
「そうなんか?」
俺はわかんね、とウィングが半ば考えることを放棄しかけて、そこへテルが現れた。
「よぉ」
「あ、ちょうどよかった、“うの”って知ってる?」
「は?」
UNOのアクセントがひっくり返っている。
「UNO、です」
「ああ、あるよあるよ。レクリエーションルームのカードルームに」
「そうなの?全然知らなかった…」
「あはは、まあ、手品から殺し屋キラーまではばひろーく取り揃えておりますからね?」
からからと楽しそうに笑ったテルはたぶん右下にあるんじゃねぇかな、と言い添える。
どうでもいいけど、“殺し屋キラー”ってどんなゲームだろう、とヒカリは首を傾げた。
「そうだ、ヒカリちゃん、俺と一緒に来てくんね?『例のコト』で話があるんだけど」
「え、あはい」
ヒカリ自身には『例のコト』については何も覚えがなかったが、素直に返事をして立ち上がった。
「えぇ!UNO、分かんねーじゃん!!」
「どのくらいで帰ってくるの?」
「お前らが生きてる間にはな♪」
「なにそれー!!」
「じゃ、ついてきて?」
楽しそうにそういうとテルはヒカリに背を向けて歩き出した。
…というかこの人、会ってからずっと笑ってるような気がする…
「あの!!」
「ん?」
どこに向かうのか、とか色々疑問はあったが、どういうわけだかでできたのは不思議な質問だった。
「…聞かないんですか、あんな意味ありげに言ったのに」
「あ?あ、あぁ。無粋なことはしねぇよ。基本は」
「ぶすい?」
「ん。余計なことはしないの。わざわざ隠してることをほじくり返すようなやつはこの船にはいないしいらない。だからわざわざ偽名で名乗った奴の本名聞くとかはしないの」
「…」
いないし、“いらない”。
そういう人がいたんだろうか、ヒカリはフッとそう思って、口に出してしまった。
「もしいたら」
「すぐにたたき出すね、詮索好きは嫌いだから」
ワドにも悪いし、と小さく呟いたのには、ヒカリは気が付かないふりをした。
だってわざわざ小さく呟いたことを聞き返すなんて、ぶすい、でしょ?