☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
「何なんですか、アクマホウって」
「悪魔、法じゃないよ。悪い魔法で悪魔法。神隠しって聞いたことない?あれがそうかな、たぶん」
ヒカリに向かってそういうテルは口調こそ軽いが、よしよしいい子でちゅね~とワドを撫でまわす手つきは獲物を品定めしている虎とそう変わらない。
「ことにヒカリちゃん、空から光が降ってこなかった?穴が開いてたとか、異世界への扉がパッカーンとか」
「空から降ってきました。あの、見せていただいた“魔法陣”みたいなものが」
「ああ、やっぱり?それによって連れてこられたんだよ、ヒカリちゃん。でもかなり生き残る確率は低かったけどね」
「え?」
「まず最初に無理やりねじ曲がった時空にいるうちに頭おかしくなったりするんだよ。次に放り出されたとき真空だったら死んでるし」
俗に言う減圧死ってやつだよ、とテルは微笑みながら言った。
…微笑みながらいうことじゃないと思うんだけど。
「最後に、拾われた船が悪かったら殺されるし。あ、それ以上にまだあったわ」
たぶんお前に気配消す能力がなかったら一瞬でお陀仏。
「この船ってさ、なんか悪いやつが入ってきたらそいつ跡形もなく消滅する仕組みになってんの」
そんな仕組みなんですか。
ヒカリは盛大に心の中でツッコミを入れた。
「あの、ごしゅ」
「ん?どした?」
とテルが猫なで声で言いながらワドの首筋を爪で軽くひっかく。
ワドは親に甘えた猫が裏切られて虐待を受けているような悲鳴を上げた。
「声なき声だね」
俺、この姿勢になったらワドのコト簡単にぶっ殺せるんだ。
そういってにこにこしながらテルは微笑んだ。
「いたぶらないでください、殺るなら一思いにうぐぇ」
「殺さないでください、やめてくださいだろ…?」
「はい、一思いにおねが」
ゴン、とワドに頭突きをして気を失わせるとさてさてさてとテルはヒカリに向き直った。
「ごめんね、自分のことみょーに卑下する癖があんの」
「…それはくせじゃないんじゃないですか」
「なかなか治んないんだよね、困ったもんだわ」
テルがよしよしと今度は優しくなでてやるとワドはうっと呻いた。
「結構、いいやつなんだけどなぁ…」
「…そう、何ですか?」
それ以上踏み込んじゃいけない気がしたけど、ヒカリはそういった。
返事は返ってこないと思っていたけれど、意外にもテルから独り言のような返事があった。
「いいやつすぎて、心配になるくらいだよ…」
その声はあまりにも疲れていて、テルが慈しむような笑顔を口の端だけに浮かべて、大切な宝物を扱うかのようにワドを抱きしめた。
「俺が守ってやらなきゃ。死んじまうから」
くすっとそういったテルにヒカリは何か言おうとした。
でも出てきたのは的外れな言葉で。
「テルさんって、ワドさんの恋人みたいですね」
「どっちよ?」
「テルさんが彼女」
「あは、そっか…ワドが彼氏か…」
何故かテルは考え込んで、そのあと肩をすくめた。
「ありがと、目指してみる」