☆Friend&ship☆-季節はずれのモンスーン-
ヒカリがテルとあって何日かしたころ、キースがひょっこりヒカリの前に現れた。
「ヒカリちゃん、ちょっとテルが呼んでるんだけど…いいかな?」
「え?何がですか」
「警戒しないで、勉強会なるものをやるらしいよ。キングに言わせればワドの自慢大会らしいけど…」
「何ですか、それ…」
「ワドってすっごく勉強できるんだよ、だからそれを自慢したいだけなんじゃないかって」
「…誰がですか?」
分かってるけど、といった調子で聞くとクスクス笑ってキースが答えた。
「そりゃ船長だよ。だってワドにぞっこんだもん。気持ちはわからなくもないけどね」
「…」
「なにしろ能力があるから。顔もいいし、性格もいいし。ヒカリちゃんも知ってるでしょ?」
「まぁ…そうですけど…」
「それに言ったっけ、義足から義手まで、全部ワドが作ってくれたって」
「聞きました」
「だから僕もワドびいきだな。あ、船長には内緒だよ?僕が殺されちゃうから」
嫉妬深いんだよね、と面白そうに言ってキースはヒカリに手を差し出した。
初めは少し引き気味だったけれど、今は普通につかめる。
「ヒカリちゃんも、度胸が据わってきたねぇ」
冷たい感覚がヒカリの手のひらを襲ったが、もう慣れてしまった。
キースが嬉しそうにヒカリをせかす。
「早くしないと。船長は短気なんだよ?君も知ってるでしょ」
それを裏付けるようにあのガラステーブルから怒鳴り声が聞こえた。
「おい、何やってんだよ、青春エンジョイしてる暇があったらさっさときやがれマセガキ!!」
ふふふ、とキースが笑って駆け足に変更した。
「ガキはないでしょ!?僕もう大人だよ!」
「気にしてるとこがもうガキくせー」
「酷いよ!」
「ヒカリぃ!!気を付けて、大人だからキースも変態かも!!」
「ちょっとシルン!?」
僕は違うからね、とキースが慌てて弁解しているのをヒカリは横目に見て、クスリと笑った。
「キース君おもしろぉい!!」
「え!?」
さらにシルンに向かって“も”ってどういうことだよと詰め寄るウィングを見て、ヒカリは肩をすくめる。
「なに?風呂場に盗撮用のカメラを仕込む男に変態って言って何が悪いの?」
「それはおれじゃねーよ!!」
「じゃあだれっだっていうの!?」
そしてシルン曰く“ゾンビの親族よ、間違いないわ”のゼロがワドに栄養学について半泣きのまま講義を続けていた。
「L君、お願いします。君は間違いなく五大栄養素が著しく不足しています。お願いですなんでもいいので何か食べてください」
「最近資源ごみを漁ったって言いませんでしたか。アクリル樹脂を数グラム食べました」
「怒りますよ」
まとまりがないことこの上ないね、とキースが呆れているのか、それとも楽しいのか、弾んだ声でそういった。
そのとき、テルがパンパンと大きく手を鳴らした。
「静粛に!!これより第…何回目かの勉強会を始める!!全員ノートの準備!!」
「りょーかい、せんちょ!」
若干茶化して、キングがそういった。
「航空術しか能がない女の子には負けたくねぇなぁ」
「うるさいウィング、今度こそ社会で泣かないように気を付けて!!」
シルンとウィングは火花を散らしている。
「いいですか、絶対に、今日の夕食には手を付けてください」
「最近皿を割ってしまって。ガラスがあるのでそれを…」
「L君!!」
頭を抱えたゼロをキングが笑って慰めた。
「ノートとれよ、多分俺たち、宇宙一いい先生に会ったんだから」
「ガラス、ガラスですよ?これが所長にばれたら…ああ、考えただけでも恐ろしいです…」
「おいそこぉ、静かにしろって!!」
テルが怒鳴り、キースが肩をすくめた。
「なれないなぁ、船長の怒鳴り声」
その割に、なんだか楽しそうだったけど。
着席し、ちょうど全員が半円を描くような形で座る。
そして一本の金属の棒のようなものを取り出した。
ヒカリにはそれが何かわからなかったが、ワドは一度指を鳴らし自分の背後、つまり全員の前にスクリーン出現させた。
「あの…私どうすれば…」
「ヒカリさん、これを使えばいい…ほら、こっちを内側にして折り曲げるんだ」
いまいちよくわからないヒカリに隣のシルンがうまくヒカリの棒を折り曲げた。
その棒は好きな形になるらしく、ウィングはへんてこに曲がっていたし、キースは柔らかな楕円を描かせ、ゼロは数字の8の字型にしていた。
シルンはシンプルに四角形で、ヒカリのを五角形にした。
「ありがとう」
「どういたしまして…あ、ちゃんと端をつなげてね。ペンを出したら使えるわ」
「はぁい…」
ブン、と音がしてスクリーン、そして手元にヒカリが灯る。
「じゃ、よろしく、ワド!」
テルがそう言って、ペンがたつように穴をあけたノートを構えた。