美しいだけの恋じゃない
別にそんなこと望んでなんかいなかったのに、騙しや誤魔化しのスキルがどんどん向上して行く。


何だか妙におかしくなって来て、思わず「ふっ」と小さく声を発しながら自嘲してしまった。


営業一課にたどり着き、出入口でお二人と一緒に全体に向けて「おはようございます」と挨拶してから自分のデスクへと向かう。


あちらこちらから「おはようございます」と声が上がる中、師岡さんをさりげなく確認すると、眉を吊り上げてＰＣのディスプレイを凝視していた。


『須藤美智瑠に挨拶など返してやるものか』という、とても頑なで強い意志を感じる。


週の始めから不機嫌マックスな師岡さんと至近距離で仕事をこなさなくてはいけないなんて、担当されている営業マン、同チーム内の人達がすこぶる気の毒である。


自分の意見をストレートにぶつけられてとても清々しい気持ちになっていたけれど、彼女の怒りの炎に油を注いでしまったという点については申し訳ない事をしてしまったと思う。


心の中で懺悔しつつ、デスクまで歩を進め、周りの席の方に改めて挨拶をしながら椅子に腰かけた。


……とにかく、今日から気持ちも新たに、お仕事頑張ろう。


それが皆さんに対する最大の償いであり、使命だと思うから。


そう決意表明をしながら端末の電源を入れ、キーボードのホームポジションに指を置き、ディスプレイの表示がパスワード入力画面に変わるのを待った。
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