美しいだけの恋じゃない
しかし今回、本来の予定日から約3週間も遅れてしまっている事になる。


こんなに誤差が生じるなんて…。


心拍数が人生で最大ではないかというくらいはね上がった。


背中を冷や汗が伝うのも分かる。


こんなに動揺しているのには訳があった。


何故なら、来るべきものが来ない理由として、真っ先に思い浮かぶのはあの事しかないから。


あの夜の事しか…。


「どうしたの?須藤さん」


するとそこで田中さんに呼びかけられた。


ハッとしながら視線を向けると、とても心配そうに私を見つめている。


「何だか急に顔色が悪くなってない?」

「ホントだ。さっきより青白いよ」

「あ、えっと…」


必死に頭を働かせた。


「…実は、私も今、佐藤さんと同じ状態でして…」


真逆の立場だというのに、とっさにそう言い訳してしまった。


いや、だからこそかもしれない。


普段はとても煩わしく感じている月のものだけれど、それがコンスタントに訪れるのがどれだけ有難いか事か、身に染みて分かったから。


これからは大切にお迎えするから、どうか早く来て欲しいという思いから、ついつい口をついて出てしまったのだろう。


「あ、そうなんだ」

「じゃあちょっと貧血チックなのかな?」

「はい…。本調子じゃなかったので、この人混みに酔ってしまったみたいで…」

「ああ、何だか今日はやけに混んでるもんね」
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