美しいだけの恋じゃない
「日替わり定食がハンバーグだからですよ。社食の一番人気メニューだし」

「ですので、申し訳ないですが…」


言いながら、手にしていた箸を置き、立ち上がった。


「お先に失礼しますね。ちょっと、外気に当たって来ます」

「あ、うん」

「無理しないようにね」

「はい。ありがとうございます」


必死に笑顔を作ってそう答え、先ほど話に出た、本日の日替わり定食の食べ残しが乗ったトレイと、自分の背中と椅子の背もたれの間に挟んで置いておいたトートバッグを手に、テーブルを離れた。


だいぶ残してしまったな…。


罪悪感に苛まれながらトレイを返却口に置く。


社食の定食は女性でも食べきれるよう配慮されている量だった。


それでは物足りない人、例えば外回りの男性などはミニラーメンやうどん、一品料理を付け足して調整するようになっている。


なのでいつもはきちんと完食できているのだけれど、とてもじゃないけど今日はこれ以上食欲が湧いて来なかった。


怖い…。


社食を出て、廊下を進み、エレベーターホールまで来た所で思わず自分の体を抱き締めた。


周りに誰もいなかったからできた事だ。


しかしこの状態は一時的なもので、この空間にはいつ、誰が来てもおかしくはない。


完全に一人になりたい。


身体を震わせながら、切に願った。


一人になって、心と体を充分に落ち着かせたかった。
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