美しいだけの恋じゃない
じゃないと、午後の勤務を乗り切る自信がない。


『外気に当たる』と言い訳して出て来たものの、建物の外にはひっそりと潜んでいられるような場所はない。


このまま営業一課に戻っても、室内には電話当番や手作りのお弁当を食している人達がいる。


これから混雑してくるであろうトイレの個室に籠る訳にもいかない。


この時間、社内で一人きりになれる場所なんて……。


そこでふいに閃いた。


そうだ。
あそこなら、大丈夫かもしれない。


階段室の、屋上手前の踊り場。


その光景が脳裏に浮かぶのと同時にエレベーターの△ボタンを押していた。


到着した箱に乗り込み、5階まで上がる。


そこから今度は階段室まで歩を進めた。


このビルの最上階である5階は、重役室と会議室しかなく、他のフロアと比べるとひっそりとしているけれど、だからといって油断はできない。


むしろお昼休みこそ、普段よりも人の往来は激しくなっているかもしれない。


重役以外にも、午後一の会議等の為に昼休憩を早めに終えて上がって来る人がいたり、自分の部署があるフロアのトイレが混雑していた場合、ここまで遠征して来る人もいたりする。


なので誰かに目撃されたりしないよう、『一人でこそこそ何をやってるんだ?』と訝しく思われたりしないよう、辺りに視線を配りながら足早に階段室を目指した。
< 123 / 219 >

この作品をシェア

pagetop