美しいだけの恋じゃない
『一つ、訂正しておきたいんだけど、こんなだらしのない俺だけれど、付き合うのはいつもその時に本気になった女性だけだよ』

「え……?」

『須藤、あの夜に言っていただろ?『女性経験が豊富だと、面白おかしく言い立てている人達が云々』って』

「あ」

『まぁ、どのメンバーがそんな事を言っていたのかは、だいたい予想が付くけど』


そこで門倉保は苦笑いを浮かべている事が窺える声音になった。


『槍玉に上がっていたのは、俺の大学時代の恋愛事情についてだろ?あの話は、学年の垣根を越えて広まっちまったみたいだからな…』


質問は挟んだけれどそれに対する答えは期待していなかったようで、彼は休むことなく続けた。


『同期にはいないけど、五十嵐パイプには、俺と同じ大学出身の先輩方がチラホラ存在してるから。そのうちの誰かか、もしくは別ルートからなのかもしれないけど、とにかくひょんなことからその人物はその情報を入手した。だけどきっと伝言ゲームが進むうちに、捻れた悪意による、勝手なアレンジが加えられてしまっていると思うけどね』

「アレンジ…?」

『うん。そりゃこの年なんだから、恋愛経験はそれなりにあるよ。だけど、いつもきちんとケジメをつけてから次の恋に向き合って来たし、同時進行で複数人と付き合ったり浮気をしたりした事もない。他人から『面白おかしく』言い立てられるような振る舞いをした覚えなんかないんだ』
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