美しいだけの恋じゃない
『これが事件の真相。と言っても、俺が自分に都合の良いように話を脚色して、友人も口裏を合わせているんだろうと言われたら、もう証明のしようがないけど』

「え…」

『だから、どっちの言い分を信じるかは須藤に任せるよ』


何故彼はこう次から次へと、返事に困るような話題を提供して来るのか…。


『…何だか、ムキになって語っちまったな』


表情の見えない電話越しでも私の戸惑いは伝わったようで、門倉保はちょっと気まずそうに呟いた。


『いきなりこんな過去のトラブルを捲し立てられても、リアクションに困るよな。でも、どうしても須藤には聞いてもらいたかったから…』


相変わらず私は何も言えない。


『さて、と』


だいぶ長く感じたけれど、実際には十秒にも満たなかったであろう沈黙のあと、門倉保は声音を明るいものに変えて言葉を発した。


『それじゃあ、そろそろ切るね』

「あ、あの」


そこでようやく私は会話を再開する。


「今、帰り道ですか?」

『ん?うん』

「もしかして、例の物を、買ってしまったりしましたか?」

『いや。まだ会社の敷地内だから。玄関を出て、門に向かって歩いているところでケータイが震えて、画面を確認したんだ。そしたら須藤からのメールだったから、門扉の所まで移動してそこで本文に目を通して、折り返し電話をかけたっていう流れ。もちろん、周りには誰もいないから安心して』
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