美しいだけの恋じゃない
「そうですか…」


余計な出費をさせずに済んだのならなにより。


それに、その商品自体はとても役に立つ物で、この世に存在してくれなくては困るけれど、だけどいざそれを手に入れるとなると、どうしても気恥ずかしさが込み上げて来てしまう。


私と門倉保のような立場の場合には、そこに後ろめたさもプラスされる。


そんな精神的負担をかける前に連絡が取れて、本当に良かったと思う。


……この人に借りは作りたくないものね。


「それでは…。お気をつけて、お帰り下さい」

『え!?』

「えっ?」


彼が突然素っ頓狂な声を発したので、私も思わずつられてしまった。


『あ、う、うん。ありがとう…』


何やら呆然としているような声音だった。


「え…。あの、どうかしたんですか?」

『ご、ごめん。何だか、久しぶりだなーと思って』

「え?」

『須藤にそういう労い系の言葉をかけてもらうのは』


そこでようやく合点がいった。


確かにここ最近、私は彼に対してビジネスライクな姿勢を貫いていたから。


皆さんの手前、「いってらっしゃい」「おかえりなさい」くらいは言っていたけれど、気遣いの一言はあえて添えなかった。


『須藤は入社した当初から、自然にそういうことを言ってくれていたんだよな』


門倉保はしみじみとした口調で続けた。
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