美しいだけの恋じゃない
反対に言えば、田舎だからこそ、他人とちょっと違う所があるだけで偏見の目を向けられ、突飛な噂を流されたという面もあるのだけれど…。


実際に、その後進学した都内の大学では、男子も女子も華やかでお洒落な子がわんさかいて、その中で私だけが特別に目立つという事はなかった。


『ただの普通の平均値の、今時の女子大生』として生活を送る事ができた。


とにかく学生時代はそんな風にギリギリの所で、何とか危機を回避できていたのだ。


それなのに…。


ある程度の処世術を身に付けられた社会人になってから、まさかこんな落とし穴が待ち受けているなんて。


今まで必死に守って来た宝物を、あんな最悪な形であっさりと奪われてしまうなんて。


『は、初めてだったのか？須藤…』


そこでふいに、彼の表情とあのセリフが脳内に甦り、目の奥がズキンと酷く痛んだ。


瞬く間に瞳が潤み出し、自分の泣き顔を見たくなくて、慌てて目を閉じる。


道は空いているし近距離であるし、おそらく自宅アパートにはあと十数分で着くだろう。


運転手とやり取りを交わすまでに何とか平常心を取り戻さなければ。


私はそう決意しながら、バックミラーの死角に入るように体を横向きに倒すと、目尻から溢れた涙を右手の指でそっと拭った。
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