美しいだけの恋じゃない
このタイミングでうかつに休暇を取ったりしてしまうと変な憶測が飛び交うのではないかという危惧もあり、体に鞭打って出勤したのだ。


「須藤さぁん。おはよぉー」


ドキドキしながら女子更衣室のロッカーに荷物を収納していると、私と同じ営業一課に所属する先輩社員が笑顔でにじり寄って来た。


勤続年数16年になるらしい、部署内の女性では一番ベテランの師岡礼子さん。


普段とは異なる、愛想の良い表情と声音で呼び掛けられ、大いに戸惑いつつも挨拶を返した。


「お、おはようございます…」

「ねぇ、大丈夫だったのぉ?」

「え?」

「金曜日、だいぶ酔っぱらっちゃってたからー」


さっそく来たか、と私が身構えている間に、彼女は話を続けた。


「ぐでんぐでんになっちゃって、今にもその場で寝こけそうになってたから、こりゃイカンって事で、門倉君が二次会を放棄して送ってくれたんだよー?」


だいたい予想はついていたけれど、私達が共に会場を後にした事は部署内の皆さんには周知の事実であったようだ。


そして彼はそういった過程を経て、おそらくその数時間後、ああいった行為に及んだという事だ。


よくぞそんな気分になれたものだ。


自分のだらしなさはあえて棚に上げて客観的に言わせてもらえば、気分がすぐれない後輩の介抱を託された立場な訳で、職場の皆さんの顔がちらついたり、罪悪感に苛まれたりはしなかったのだろうか?
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