美しいだけの恋じゃない
ケータイを両手で握り締め、全身を震わせ、顔をくしゃくしゃにして、私は子供のようにわんわんと泣きじゃくった。


生きなくちゃ。


強く心に誓う。


この人達の為に。


実は数分前、ほんの一瞬だけ、最悪の選択が頭を過ったりもしたけれど…。


今はそんな気持ちは遥か彼方に吹き飛んだ。


自らの手で人生の幕を下ろし、本来の寿命を縮めるような事はしてはいけない。


そんな親不孝な真似は。


命の炎が自然に消えるその瞬間まで、私は生にしがみついていなければいけないのだ。


この愛しい人達を守る為に。


他人の不幸は蜜の味と感じる、一部の下世話で下品な人種を喜ばせてなるものか。


決して好奇の視線を向けられたりしないように、後ろ指を指される事などないように。


たとえ心の中では汚く、ドロドロとした感情が渦巻いていようとも、そんなものはおくびにも出さずに、愛情たっぷりに大切に育てられた、須藤家の幸せな一人娘として、私は胸を張って生きて行かなければならないのだ。


私は私の人生を全うしなくてはいけないのだ。


それが現世の私に課せられた重大な使命だから。


その代わり、今だけは思う存分、泣かせてもらおう。


これはひたすらネガティブでナイーブで、ただウジウジと思い悩んでいるだけの、役立たずな心と決別し、新しい自分を生み出す為の、大切な儀式だから。
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