美しいだけの恋じゃない

会社を出て、家路を辿りながら思わず安堵のため息をつく。


新人に対してこの上ない歓迎ムードを作って下さっていたし、また、初日から疲労困憊にならぬよう、事前にきっちり作業計画を立てて下さっていたんだろうな、というのが如実に分かる、丁度良い仕事の量、難易度だった。


仕事上密に接する事になるであろうチームのメンバーが、そんな風に思慮深く穏やかな人達ばかりであった事に胸を撫で下ろすのと同時に、何のトラブルもなくすんなりと新しい環境に入って行けた事に、心底感謝の念が沸き起こる。


奇跡とも言うべきこの幸運を無駄にしない為にも、これから精一杯頑張って行かなければと、私にしては珍しくとても前向きな気持ちになれたのだった。


『型番で【Ｄ】の付くものがあったら、【ディー】じゃなくて【デー】って発音する決まりだろ？プライベートでも、ついうっかり友達に『デーブイデー早く返せ』って言っちまって、すっげー笑われたんだよな』


夢の中では、仕事の手は休めずに、冗談めかした明るい話題を私に向けて提供してくる門倉保の姿が次々と再現された。


『あ、今帰り？お疲れ！気を付けてな』


外回りから帰って来て、しかもその後も残業する事が決まっていて、心身共にクタクタであっただろうに、先に上がる私に向けてその事を後ろめたく感じさせないようにする為か、陽気に見送る姿も。