美しいだけの恋じゃない
要所要所で、さりげなく気遣いされている事がヒシヒシと伝わって来た。


『須藤さんて、ホント綺麗だよね~』


ある日のお茶休憩時、自分のデスクから佐藤さん越しに私をまじまじと見つめつつ、田中さんがそう呟いた。


『ですよねー。女の私でも時たまドキッとしちゃう』


佐藤さんもウンウンと力強く頷きながら同意する。


お二人に悪気がないのは分かっているのだけれど、苦手な容姿の話題になってしまい、私は思わず固まってしまった。


『んー?いや、綺麗っていうか…』


すると、社内に留まりデスクワークを片付けていた門倉保が、ナチュラルに会話に参加して来た。


『どちらかというと『美しい』の方がしっくり来ますかね?』


そしてにっこりと微笑む。


『……なんで君が紡ぎ出す言葉はいつもそんなに軽いのかしらねぇ?』

『ホント。良いこと言ってる筈なのに、その意見を素直に肯定するのが何だかすこぶるシャクっていうか』

『ちょ、何ですかその言い草。せっかく俺が真面目に語ってんのに』

『イメージが永遠のやんちゃ坊主なんだよねー。何だか動きがちょこまかしてて忙しないし』

『視界にその姿が入り込むと超絶に目にうるさいというか。だからこそ余計、同年代の須藤さんの落ち着きっぷりが際立つのかしらね』

『ヒドイなー。つくづく容赦ないっすよね、二人とも』


門倉保は苦笑いを浮かべている。
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