美しいだけの恋じゃない
田中さんと佐藤さんはひたすら彼を茶化しまくっていたけれど、でも、私は内心とても嬉しかった。


容姿の形容をされる際、「派手」「ケバい」「お水っぽい」という言葉が断トツ上位に来ていて、「美しい」なんて表現されたのは初めてだったから。


ただそういったイメージを抱いてしまうだけならまだしも、事実をねじ曲げて勝手に私の経歴を作り上げ、見当違いな攻撃をしかけて来るような人ばかりだったから。


そういった輩に対し、私の代わりにその考えを否定し、『しっし』と追い払ってくれたように感じられたから。



……だからすっかり、騙されてしまったんだよね…。


救世主なんかじゃなかったのに。


本当はあの男こそが、私を不幸のどん底に突き落とすべくこの世に放たれた、悪の刺客であったというのに。


人を見る目がよっぽど曇ってしまっていたんだな、と痛感する。


そこで私は瞼を開いた。


その少し前から、すでに意識は夢の世界から現実世界へと滑らかに移行していた。


ゆっくりと上体を起こし、ベッドに腰を据えたままぼんやりと考える。


時系列がしっかりしていて、とても秩序のある夢だった。


普通は流れが前後したり時代背景がおかしな事になっていたり、そもそも実際には経験した事のない、荒唐無稽なストーリーが大半だったりするのに。
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