すべてが始まる5分間
「ちっ、なんだよ」
舌打ちをひとつ。
そして、茶髪2人組は去っていった。
「あ、あの…?」
見上げると、その人はふっと顔を緩めて、
「諦めたね、あいつら」
そう言って私を見た。
そっか。助けてくれたんだ。
「ありがとうございます。助かりました」
そう言って、丁寧に頭を下げると、
いいよ、気にしないでと、また笑った。
屈託のないその笑顔に
私の心の、何かが動いた気がした。
「じゃあ、女子1人は危ないから気をつけて」
右手を軽く振っていなくなったその人からは
ほんのりシトラスの香りがした。
高2の夏。
夏休み最終日の出来事です。