夢中にさせてあげるから《短編》番外編追加
大きく開いた胸元に、彼が精悍な頬を傾けて唇を寄せる。

「やだ、やだよ」

「乃愛、俺に夢中になれって。そしたら俺、」

「怖い。愛児、怖い」

愛児がピタリと動きを止めた。

熱をはらんだ瞳が私を捉える。

私は震える声で言った。

「したこと、ないの」

愛児が眼を見開く。

私は、恐怖と羞恥心から生まれた涙を止めることが出来ずに、子供のようにしゃくり上げた。

「この歳でしたことないなんて、愛児からしたら気持ち悪いかも知れないけど、私は誰ともしたことないの。怖い、怖いよ愛児。こんなの嫌。好き同士な人としたい」
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