夢中にさせてあげるから《短編》番外編追加
愛児の言葉に思わずクラッと目眩がして、私はよろけた。

「な、な、な」

「どもるな」

ぐーっ、憎たらしいー!

「とにかくこのDVDは譲れない。これは俺が借りる」

ちょっと待てっ!

本当なら張り倒してやりたいところだけど、ここは下手に出た方がいい気がする。

「あのね神崎さん。『ファラオ』は私、何日間も通いつめてようやくゲット出来そうだったの。私ね、これずっとずっと前から見たかったの。来週は忙しくて残業多くなるし、週明けは出張だし今日しかないの。お願い!譲って」

私は切々と語り、愛児を見あげた。

すると意外にも愛児は、そんな私を見て僅かに息を飲んだ。

切れ長の澄んだ眼が私を見た後、その視線が落ち着きなく空をさ迷う。

「お願い」
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