夢中にさせてあげるから《短編》番外編追加
「う、うんっ」

自分が泣いてるなんて気付いてなかったけど、私は菜穂が差し出した紙ナプキンを受け取ると涙を拭った。

「ごめん」

「行けっ!乃愛の幸せは私の幸せでもあるから!」

私は、グシャグシャの顔で菜穂に頭を下げると、踵を返してエレベーターへと向かった。

一階に着くと直ぐに走り出せるように、ハイヒールを脱いで片方ずつ両手で持った。

もう、パンストが破れようが、足が痛かろうが構わないと思った。

そんなことより、早く愛児に会わなければならないと思ったから。

エレベーターの扉が開くと、豪華なロビーが眼に飛び込む。

私はハイヒールを片手で束ねるように持ち直して、空いた手でドレスの裾をグイッと掴み上げた。
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