僕の青春。

「一也」

黒板には数字や記号。
緑の背景を、白い文字が埋め尽くす。
僕はそれをずっと眺める。
いつも当たり前のように毎日見る黒板。
チョークで黒板に書くのは大半の人が好きだろう。
黒板は緑。全面が緑。
でもこの緑でも黒いマスが書かれている。
まぁ知ってる人もいるだろうけど。
でも先生たちが何回も何回も同じ所にチョークで書くからマスは消えてしまう。
気づいたら消えてしまっているのだ。
黒板を作っている人はマスを書くだけにどんだけ苦労をしているんだろう。
なんか、、、
数学の教師「おーい、いちやー」
いつの間にか消えてるのって
数学の教師「いちやー」
その人の
数学の教師「いちや!!」
ビクッ!!
なんだよ、、、あ。
一也「、、、あ。はい」
このパターンかよ。
数学の教師「はい、じゃねぇよー。いちや、お前それじゃ大学行けねぇよ?」
一也「、、、かずやっす」
その一言で教室が静かな笑いに包まれた。
数学の教師「あ、、かずやね。ごめんごめん。恥ずいから授業を進めまーす」
先生がいろんな人に笑われてる。
何となく七海の方を見た。
すると七海はこっちをすでに見ていて、ニヤリと悪魔のように笑ったのだ。
あいつは僕を笑っている。
僕のコンプレックス、名前。
僕は「一也」と書いて「かずや」と読む。
普通に読めてもおかしくない名前。
なのに、今までの人生で最初に「かずや」と読んでくれた人は1人もいない。
誰もが最初に読むのは「いちや」。
(1人くらい読めてもいいじゃん)と、
毎回毎回思う。
七海は最初漢字が読めなかったが、名前を聞かれた時には「いちなんて読むの?」と言われた。
やはり「いち」から始まる。
それが何回も続いてしまって、この名前がコンプレックスになった。
前に親に聞いてみた。
なんで「一也」って付けたの?って。
母が昔ずっと好きだった芸能人がいたらしい。
でもその人は結婚してしまって、
その晩はゴミ箱二個分ティッシュを使ったという。
その人の名前を僕に付けたらしい。
だからあまりこの名前には意味がないんだ。
だから僕もこの名前に対して情はない。
これから僕は「かずや」って呼ばれることがあるのだろうか。
いや、17年間生きてきてないんだからないだろう。
もう慣れたからいい。
ちょっと悲しいけど。
......................................................................
昼頃。
僕と七海は一緒に昼食を食べていた。
僕はメロンパン。七海は弁当。
七海は四人兄弟で1番上で、みんなの分の弁当をいつも1人で作っているらしい。
お母さんは朝早く仕事に出掛けるからって、気遣ってやってるらしい。
そのくらい僕にもできます。
いや、毎日続いたらめんどくさいかもな。
その弁当のおかずは決まっている。
一也「またそれなの?」
七海「またって?」
一也「おかず」
七海「ああ。だって何作ったらいいか」
一也「食べてて飽きないの?」
七海「そんなこと言ってられないでしょ?」
一也「そ、そうですね」
七海「別にあんたに作ってるんじゃないんだからいちいち文句つけないでよ!」
一也「文句つけてねぇよ」
まず、主菜は鮭の塩焼き、チーズハンバーグ、生姜焼きのどれか。
川嶋一家は肉と魚が大好きらしい。
ただ本人が魚料理はあまり知らないとのこと。
ハンバーグはあえてチーズを入れる。
なぜかと言うと、ハンバーグだけだと文句を言われるらしい。
末っ子ちゃんには「味無くてまじゅい」と言われたらしい。
チーズ無くても味をつけることはできると思って作り方を聞いた。
なんと、塩コショウ振らずソースもしてなかったそうだ。
それはそうだ。味がないに決まっている。
こんなにぬけてる人がいるのかとマジで思ったことなかった。
可笑しかったけど、可笑しすぎて笑えなかった。
で、僕がいろいろ教えてやって作ったら美味しいと言われたらしい。
それでもっと美味しいって思われたいため、チーズを入れるようになったとのこと。
それが好評だったらしい。
だからあえてチーズハンバーグ。
そして副菜はきんぴらこぼう、ほうれん草の胡麻和え。
必ずこの二つである。
理由を聞いてみた。
好きだからとのこと。
それ以上はもう聞かなかった。
聞く必要もなかった。
そして、肝心な主食。
主食は米。でも白米ではない。
白米にふりかけをかけたわけじゃない。
納豆をかけたわけでもない。
海苔をかけたわけでもない。
マヨネーズをかけたわけでもない。
なら何かと言ったらそれは。
「雑穀米」だったのだ。
理由を聞いてみた。
好きだからとのこと。
もう何も聞かないことにした。
少しおばちゃんくさい川嶋の弁当。
でも何となく食べてみたい。
なんか凄い美味しそうに見える。
その、、、愛情ってやつ?
よくわかんねぇけど。
だから兄弟たちは飽きることなく、
毎日毎日美味しく食えるんだと思う。
一瞬だけ兄弟たちが羨ましく思えてきた。
僕が幼稚園の頃、親に作ってもらってた弁当。
弁当箱に入ってたのはいつもおにぎり2個。
それはそれで毎日美味しく食べれた。
毎日具材が違かったのだ。
最初は鮭、梅、昆布、明太子という感じだった。
ちょっとそれが飽きてきたら、唐揚げ、生姜焼き、ジャーマンポテト、ゴーヤチャンプルと豪華な物になっていた。
で、お母さんは面白く思ってきてポテトサラダ、海苔、生姜、レタス、肉の脂の部分と少しバカにしたようなものを入れてきた。
そして今度はハードルが上がって、梅干の種、いちごジャム、バター、男梅、さくら大根など完全にバカにしたものを入れてきた。
そして最終的にはバランを入れてきた。
ちょっとそれが怖くなった。
消しゴムやら針やら入ってたらどうしようと思い始めていた。
それからお母さんに頼んでまた鮭、梅、明太子をおかずにしてもらった。
七海「なんでいつもパンなの?」
一也「へ?」
七海「いや、へ?じゃなくて」
一也「え?ダメなの?」
七海「そんなこと言ってないじゃん」
一也「なんでって、なんでだろ?」
七海「たまには白米を食べなさいよ」
一也「お前に言われたくねぇよ!」
七海「何よ!食べてるじゃない!」
一也「おい、それ雑穀米って言うんだぞ?」
担任「おーい!いちや!」
ん?今いちやって言った?
担任の方を見ると目が合った。
一也「僕ですか?」
担任「お!お前だ!」
七海「何回も言わせないでください。かずやです」
同感です。
担任「あ!そうだった。どうしても、いちから出てきちゃうんだよ、、」
どうなったら出てくるんだよ。
担任「あ!そうそう!か、一也。お前大学行く気はあるか?」
一也「、、、いや、それほど」
担任「そうか、、、。お前にぴったりのやつ見つけたんだけど」
七海「先生。一也、お父さんの仕事次ぐんですよ?」
担任「そうなのか?」
一也「はい、まぁ一応」
担任「何の仕事をしてらっしゃるんだ?」
一也「大工っす」
担任「大工かぁ!それはいいなぁ」
七海「こいつには合わなそうだけど」
一也「どういうことだよ!?」
担任「そうかぁ。いやぁいち、、一也は成績は上の方だからこれなんかどうかなと」
先生に見せられたのは、化学なんちゃら大学とかいうやつのパンフレット。
なんで化学?僕そんなふうに見えるか?
つうか一瞬名前間違えたよな?
担任「そっちを優先してくれてもいいから、もし良かったらパンフレットあげるから考えといてくれないかな?」
一也「あ、わかりました」
担任「じゃあよろしく!いち、、、一也!」
また間違えたよ、、、。
かずやって知ってる人でも間違えるということがある。
それが嫌なのだ。
どうにかしてほしい。
あんた教師だろ。暗記力くらいあるだろ。
何となくパンフレットを見ていた。
一也「なんで化学なんだろ?」
七海「さぁ?」
一也「僕そんなふうに見える?」
七海「いや、見えない」
一也「じゃあどう見える?」
七海「ただ時が過ぎるのを待つだけの暇人」
一也「嘘をつくのも程々にしとけ」
七海「嘘じゃないよ!ていうか自分のこと僕って言うのやめたら?」
一也「え?なんで?」
七海「普通に考えて僕って気持ち悪いよぉ」
一也「気持ち悪いとか言わなくても、、、」
七海「そうだね、言い過ぎたわ。なんかカッコ悪いよ?」
普通に考えて気持ち悪いのか?
僕はヤバイ人になってるのか?
七海「あ、彼女できない原因それなんじゃない?」
一也「え?違うよ」
七海「違くないよ!」
一也「彼女できないのは僕が作ろうとしないから。恋とかわかんないし、好きな人とか別にいないし」
七海「、、、ふーん」
急に黙り込んだ。
言い合いに勝った。ドヤ!
七海「まぁ、、、私は、、別に僕でいいと思ってるよ?」
一也「、、、え?」
七海「、、、いや!その、、、」
一也「それおかしくね?」
七海「へ?」
一也「じゃあ言わなくていいっていう話じゃね?」
七海「何となく言っただけよ!」
一也「何となくで気持ち悪いとか言わないでよ!結構傷ついたんだぜ?」
七海「それは謝る!ごめん」
一也「いや、まぁいいけど」
そんなことよりも先生の件の方が傷つくわ。
名前を何回も間違えられる。
笑えるかもしれないけど、本人にとっては結構ムカムカしてくることなんです。
このムカムカを抑えてくれることもなく、
そのまま1日終わる。
…………………………………………………
放課後。
1人で朝来た道をそのまま帰っていく。
僕の通学路には途中で本屋がある。
結構前からある所だが、1度も行ったことがない。
暇なくせに。
入りたいとは思うが、こういうのには小さい緊張感がある。
本屋のことを考えて帰ってたら、本屋の前まで来ていた。
1度そこで立ち止まった。
外から中を覗いてみる。
狭いわりにはいろんな本が置かれている。
ザッと見たくらいだが。
明日にでも来てみよう。
今日は帰って寝たい気分だ。
そして、また朝来た道をそのまま帰っていく。
6分くらいして家にたどり着いた。
もう夕食の匂いがプンプンとする。
どうやら味噌汁らしい。
まだ夕食まで2時間もあるのに。
お母さんも張り切るなぁ。
一也「ただいまぁ」
台所に聞こえるように大きい声で挨拶した。
すると、
一也の母・八千代「おかえりぃ!」
と、安心するような声で返ってきた。
僕は味噌汁に釣られて台所に向かった。
一也「いい匂いがする」
八千代「今日は味噌汁作ったよぉ」
一也「美味しそう」
八千代「夕食までには我慢よ!」
一也「わかってるよ」
八千代「でも、せっかくだから」
すると、お母さんは小皿に汁を少し入れて僕の方に皿を持ってくる。
八千代「味見する?」
一気にお腹が減ってしまった。
やばいやばい。
一也「しますします!」
皿を受け取って汁を飲んだ。
温かい汁が喉を通り、お腹を通る感覚がわかる。
これが僕にとっての食欲の始まりだ。
うん。美味い。
八千代「どう?」
一也「最高だ」
八千代「良かった!」
お母さんは嬉しそうに食器を洗っている。
家族の笑顔を見ると安心するってことはこういうことなんだな。
わかってるつもりです。
僕は階段を上がり、2階の自分の部屋へ向かった。
部屋に入るとカバンを投げ捨て、ベッドにダイブ!
これが気持ちいいんだよ。
美味しい味噌汁の試食の後に、ベッドへのダイブ。
これが最高の超ですな。
なんか名前のことなんて忘れられるくらいかな、、、。
僕の名前はいちやじゃない。
かずやです。
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