黒猫の気ままに
「郁、手洗った?」
「あ、忘れてた。」
「帰ってきたら手洗いうがいしなさいっていつも言ってるでしょう。」
はーい。と返事して洗面所に駆け込む。
言われたことはちゃんとしないと、いつまで経っても話出せないから。
そのすぐ後キッチンに戻ってきた郁は、再び母の後ろに立った。
「…お母さん、怒らないで聞いてくれる?」
「怒るか怒らないかは内容によるわ。」
母は相変わらず郁に背を向けたまま言った。
郁は口をもごもごと、開きかけては閉じを繰り返して、やがて言わなくてはいけない思いに押されながら、小声で言った。
「猫。」