黒猫の気ままに
「いってきまーす」
朝、郁は赤いランドセルを背負って出かけて行った。
学校以外の時はきちんと面倒を見ると、郁は約束した。
白は郁が玄関から出て行くのを、リビングのソファーで聞いていた。
お母さんは郁を見送った後戻ってくると、白にミルクを飲ませてくれた。
「はぁ、どうしようかしら」
椅子に座った彼女は、ミルクを飲み続ける白を横目に再びため息をついた。
「猫かー…」
白が視線に気付いて顔を上げたとき目線がぶつかったけれど、彼女はすぐ目を反らした。
世話だって大変だし、壁で爪を磨がれたらたまらないわ。
猫が嫌いなわけではないけれど、第一あの子が面倒を見切れるとは思えないのよ。
前も犬を拾ってきて…逃げちゃうし、仕事だってあるのに…。
先のことを考えると、思わずため息が出てしまう。
でもため息ばかりついているわけにもいかず、出勤するための支度を始めた。
「私、仕事に行かなくちゃいけないから、いい子にしててね」
彼女は手を振ると慌ただしく出て行ってしまった。