第六魔法学校の紅と碧
◆1
何故なら茜は、初恋もまだなのだ。
3月のはじめ、夜11時の公園で、久住茜はやさぐれていた。
名前と同じ茜色の髪をふたつに結んだ小柄な少女は、セーラー服姿で行儀悪くベンチに寝転んでスマホを眺めている。
画面には、茜のお気に入りの少女漫画が映っていた。
「はあー……いいなあ」
静寂に包まれた公園に、茜のつぶやきがこぼれる。
「あたしもこんな青春してー」
茜には土台無理な話だ。
画面に映るヒロインには家族も友達も、自分を守ってくれる格好いいヒーローまでそばにいるが、茜はそれらを何一つ持っていない。
唯一、ぱっちり二重の大きな瞳と日焼けしにくい真白な肌、あどけなさの残る愛らしい顔立ちは神から与えられた数少ないプレゼントと言えるが、残念ながら自分の容姿に頓着のない茜にとってそれは加点対象にならない。
最も、可愛らしい容姿に惹かれた誰かが、茜を好いてくれるような事態になっていれば少しは違ったかもしれないが。
「帰る家すらないあたしには、無理な話だよな」
そう、まだ15歳の茜がこんな真夜中に公園のベンチに一人でいるのには、理由があった。