第六魔法学校の紅と碧
「わりーな、あたしは人よりちょっと運動神経がいいんだ」
明らかにちょっとどころではないのだが、他人からそれを称賛されるどころか非難ばかりされてきた茜としては、自分のためにあえて『ちょっと』と認識していた。
だが、こうやって奴らからすぐに逃げられるのは、この身体能力のおかげに他ならない。
その点はこの身体に生んでくれた、今は亡き母親に感謝である。
「ひとまず、今日の寝床を探さねーと」
建物から建物へ移動しながら、茜は辺りを見回す。
そのとき、不意に目の前に大きな影が差した。
咄嗟に足を止め、立ちはだかるものを見上げる。『それ』と目が合った瞬間、茜は息を呑んだ。
そこにある一つ眼は、直径で茜の身体ほどの大きさをしていた。
これまで見たことがないほど巨大なそれは、一口で茜を丸呑みにしてしまいそうなほど大きな口を開けている。
茜は本能的に理解した。こいつからは逃げられない、と。
立ちすくみ、足が震える。
腰が抜け、その場にへたり込んだ。
何があっても決して1人で生きることを諦めなかった茜だが、このときばかりは無意識に口からか細い声が出ていた。
「助けて」と。